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苦い涙のkuuのレビュー・感想・評価

苦い涙(2022年製作の映画)
3.6
『苦い涙』
原題 Peter von Kant
映倫区分 PG12
製作年 2022年。上映時間 85分。
フランスの名匠フランソワ・オゾンが、ドイツのライナー・ベルナー・ファスビンダー監督が1972年に手がけた『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』を現代風にアレンジし、美青年に恋した映画監督の姿をシニカルかつユーモアたっぷりに描いたドラマ。
『ジュリアン』のドゥニ・メノーシェがピーター役で主演を務め、『王妃マルゴ』のイザベル・アジャーニが大女優シドニー、『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』にも出演したハンナ・シグラがピーターの母を演じる。
この映画のメインポスター(フィルマークスの画像ではない)は、ファスビンダー監督の『ケレル』(1982年)のドイツ版ポスターになぞらえたものだそう。
見たらピンとくる方も多いと思いますが、原画はアンディ・ウォーホル。

恋人と別れたばかりで落ち込んでいた有名映画監督ピーター・フォン・カントのアパルトマンに、親友である大女優シドニー・フォン・グラーゼナプがアミール・ベンサレムちゅう青年を連れて訪ねてくる。
艶やかな美しさのアミールにすっかり心を奪われたピーターは、彼を自分のアパルトマンに住まわせ、映画界で活躍できるよう手助けするが。。。

名匠フランソワ・オゾンはタイトルから、そして映画自体から苦い涙を取り除いていた。
ライナー・ベルナー・ファスビンダー監督の苛烈な試練を描く多くの作風比べれば、今作品は、その熱演の割には、ずっと温和で、パーペキで、コミカルと云えるかな。
ほんで、それは、(ほとんどが)男性であることに起因している。
映画監督ピーター・フォン・カントとなり、ドゥニ・メノーシェが陽気に演じている。
彼はファスビンダーそのものであるかのような気配を漂わせていたが、ファスビンダーはこの男よりもずっとタフで感傷的ではないに違いない。
ピーターには、カールちゅう無愛想な助手がいたが、彼は(悲劇的でもエロティックでもなく)ピーターと恋人の情熱的な対決をすべて目撃している。
シドニーを演じるのはイザベル・アジャーニ。
また、全寮制の学校から帰ってきたピーターのティーンエイジャーの娘、アミント・オーディアール(ジャックの孫)。
彼女の小気味よい存在感やけど、今作品をノエル・カワードの作品に似せている。
ピーターの美しく二枚目な恋人アミンはハリル・ベン・ガルビアが演じ、1972年に恋人役を演じたハンナ・シギュラがピーターの母親役として戻ってきている。
男女が画面に登場することで、力関係は明らかに異なる。
芝居がかった人工的なものではあるが、無機質で狂気的なものではなくなった。
オゾンはしばしば、登場人物を無意識のうちに戸口にフレーミングすることで、舞台のような入り口を与えている。
つまり、ピーターはアミンのアパルトマンで、カメラが回っている間に両親の悲劇的な死についてアミンに尋ね、どこかの殺人鬼のような激しさ(サディスティックでありながら共感的でもある)で答える。
メノーシェもガルビアもこのシーンではとてもいい演技をしていた。
しかし、この新しいフォン・カントには、どこか軽やかで、ほとんど軽薄で、フレンチ・ファルシーな雰囲気があったかな。
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