春とヒコーキ土岡哲朗

レッド・ワンの春とヒコーキ土岡哲朗のネタバレレビュー・内容・結末

レッド・ワン(2024年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

また世界に良いサンタ映画が一本増えた。

パンクでいて、ストレートなサンタ映画。
サンタクロースが誘拐され、側近のカラムが、裏社会の追跡者ジャック・オマリーを巻き込みサンタそ捜索する話。ハイテク描写や、カラムを演じるドウェイン・ジョンソンの幼児向けではない存在感、ジャックや敵の犯罪もの要素など、クリスマスを大人っぽく(マセガキっぽく)彩っている。
でも、序盤でサンタがソリに乗って世界中を飛び回るシーンが、ハイテク魔改造サンタではあるんだけど、やっていることも映像の輝きも純粋なサンタクロースの夢ある要素だった。現代の映像技術やノリでサンタクロースへのときめきをアップデートして描いた、王道のサンタ映画の最新版でもあった。
世界中のおもちゃ屋がサンタの基地とつながっていてワープできるのも、一回ませた後のSFな発想だけど、サンタクロースの新解釈として夢があって良い。
最後のプレゼント配りも、今の映像技術と発想で面白く、昔から変わらず温かく描かれていた。これぞサンタクロースという真髄を最後にしっかり見せられて温かい気持ちで帰れた。

序盤のジャック・オマリーによる犯罪シーンの手際のよさが気持ちいい。
何のための行動か分からないけど、ジャックが手際よくものをかすめとったり、人の目を盗んで工作したりして、それが次の行動につながって数十秒後に「そのためだったのか!」と分かる。一連の行動が休みなく、スピード感もこちらがギリギリ振り落とされない速さで進むので、ぐいぐい引きつけられる。このハイレベルな犯罪描写を最初に見せられて、この映画はどうやら芸達者っぽいぞ、と最初にかまされた。

違う形で夢を失った二人のバディもの。
サンタを探すカラムとジャックは、正反対だけど二人とも夢が欠けている。ジャックは幼い頃からサンタを信じておらず、人のものを盗んで得をしようという犯罪者になっている。カラムは、サンタの弟子として夢を与える仕事に尽力してきたが、世の中は悪人や自分のことしか考えていない人間ばかりで、夢を与えようとしても響かないんじゃないかと絶望し始めている。それぞれ、夢を見ること、見せることを諦めた二人。
また、ジャックは「おれは人の悪いところを見抜く能力がある」と言い、視界に入った人間の様子からどんな悪人かの推理を披露する。これが実は、カラムと対になっている。映画の最後でカラムの目には、ジャックがサンタを信じる純粋な子供の姿で見える。カラムは元々、人がそう見える目の持ち主だったのに、それができなくなっていたのが最後に分かる。人の悪さを見抜けるジャック、人の純粋さを見る能力をなくしていたカラム。この映画は、逆方向から似た状態に陥った二人のバディものだった。
一緒にピンチに陥って互いのダメさを見て、自分のダメさを振り返るうちに、また夢への勇気を取り戻していく二人。二人とも、ワンミスでもあったら夢なんて成立しないじゃないかと諦めていた。現実には夢のない瞬間もたくさんある。それでも、もう一回夢の力を信じてみる。一回諦めたところからもう一回信じるのは覚悟と忍耐が必要。でも、ただお花畑なのではなく、嫌な現実も知ってしまったからこそ、夢を信じる意味がある。

結構ギチギチに敵との戦い。
2時間の中で展開も多いし、バトルシーンの数も多い。気軽な映画かと思ったら意外と複雑で、「その目的のために今はこのミッションに挑む」という状況が多いので、「今なんでこれやってるんだっけ?」と抜け落ちてしまう瞬間はあった。それでも別に、そのパートごとのクリアのために奔走する姿をハラハラして楽しめる。