すっげぇわ……もう今となってはただのエンタメとしては楽しめないけどね……にしても映画としてよくできすぎてる。すごい。上手すぎる。そしてこの経験があったから、この前の韓国の人たちのあの反応速度があったんだなと納得。たとえば日本で似たようなことが起きたらと考えると……なんか絶望しちゃうな……。
歴史的事実を整理して端的に描写するその手際もすごいんだけど、その中にちゃんと、個別具体的な事象についてというのを超えた普遍的な人間描写があることでちゃんと映画作品として広く胸を打つものになってる。『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』や『シン・ゴジラ』を想起した。時間との戦いと、面倒くさい組織内政治の中で、確固たる信念を持ちブレずにいられる人と、パニクって「一旦待とう」とか一見まともそうなこと言うけど実際はただ日和見の弱腰の事なかれ主義でどんどん事態が悪化している現実を客観視しようとしない、流されるだけの人々とがハッキリ分かれる状況。
あちら側にしてもこちら側にしても両方の陣営で、ほとんどが後者なのだけど、それを率いるリーダーはどちらも前者で、だから別に緊急事態にどんどん決断できてしまう人が一概にエラいというわけではない。どんな決断をするかも大事だし、決断をしないでおこうとするのも状況によっては正しい。
ある種の狂人ではあると思う、チョン・ウソンも。だから「正気ですか?ついていけませんよ」って人の方が多い。説得合戦みたいな映画。どちらの方がよりリーダーシップを発揮して良いスピーチをして多くの人を口車に乗せられるかっていう戦い。ラップバトルみたい。先攻をとった全斗煥に軍配が上がった。
いや常人/狂人の2種類がいるわけじゃないな。その人がどんなポジションでそれに関わっているかにもよるし、どれだけそれがその人にとって譲れないことなのかにもよる。だから多分、大抵の人は狂うべき時には狂うものなのだと思う。しかしいつ自分が狂うべきなのか、つまりタガをはずすべきなのかを、見定めるセンスは培っておきたい。僕もちゃんと狂うべき時には狂える人であろう。そのためには何でもない時から緊張感を持っておかなければならない。平和な世界を切り裂くようにして戦争が始まるのではなく、戦争をしていない時間が平和なように感じられてしまうだけなのだと。あくまで今は休戦中なだけなのではないかと。
【一番好きなシーン】
・ひっくり返す一手としての黒い碁石をテレビに投げつけるところ
・「戦車でお前らの首を吹っ飛ばしてやる」