【フィクション】
エンディングのテロップのワンフレーズと合わせて、この「チャイコフスキーの妻」は観る人に考えさせようとしているのだと気がつく。
クラッシック音楽大国と云うと、それまでは、今の国単位でドイツ、オーストリア、イタリア、フランスということになるように思うが、これにロシアが加わる原動力になったのは間違いなくチャイコフスキーだ。
そして、彼の成功を後押ししたのは、映画の中でアントニーナに強く離婚を勧める友人で音楽家のルビンシュタインだと言われている。
チャイコフスキーはマザコンにして男色。
もう少し云うと、子供の頃からの語学教師を相当慕っていたようだ。
おそらく男性か、母親を感じさせてくれる歳上の女性しか好きなれなかったのではないかと思われる。
ロシアはご存知の通りバレエ大国だ。
それまでのロシア皇帝は、バレエを文化の中心に据え支援することによって他のヨーロッパ諸国に文化的に追いつこうとしていた。
しかし、音楽的にはムソルグスキーやボロディンといった民族色の強い作曲家の音楽が主体で、”洗練された”伝統的クラッシック音楽としての評価はヨーロッパでは低いものだった。
今では伝統的バレエ音楽の古典として誰でも耳にしたことがある、チャイコフスキーの「白鳥の湖」でさえ、当初はその延長線で低評価だったのだ。
この「チャイコフスキーの妻」は、チャイコフスキーのそんな困難な時代のアントニーナの物語だ。
ロシアを代表するクラッシックの巨匠チャイコフスキーの悪妻としてレッテルを貼られてしまっだアントニーナの物語。
為政者が歴史を書き換えるのは当たり前だ。
チャイコフスキーも晩年ヨーロッパで認められ、ロシア皇帝から称号も授けられたが、かなり遅咲きとの評価だった。
その為、遅咲きの理由を誰かに罪をなすりつけるように、いつのまにかアントニーナに非難が集まったのではないのか。
離婚を拒んだアントニーナは、ロシアの生んだ巨匠の脚を引っ張った悪妻だった(に違いない)との評判。
最近はヨーロッパでも悪女とされた女王や王女への評価の見直しがすすんでいるように思う。
日本でも日野富子や北条政子への評価が変わっているのと同様だ。
そんな中、この作品はアントニーナの悪妻としてのストーリーを見せることによって、エンディングのテロップにあるワンフレーズで、実は、こんな風ではなかったんじゃないかと僕たちに問いかけているのではないのか。
そして、ロシアの今の政治や歴史認識への皮肉を込めたようにも思える。
ずいぶんまだるっこい気もするが、新しい試みのようにも思えるし、一体何を見せられたんだと思うところもある😁
アントニーナを演じたアリョーナ・ミハイロワはきれいだよね。