このレビューはネタバレを含みます
泣けるいい話、なんだろうけど、あんまり好きじゃないなぁ。
おしゃべりな老婦人とタクシー運転手の心の交流を描いた、ほのぼのロードムービー。
と思いきや、おばあちゃんの過去の話が重すぎて血の気が引く。
女性がそういう時代を乗り越えて生きてきたのは事実だけど、設定と題材の相性に違和感があり、ミソジニー問題が強すぎて浮いている印象を受けた。
小説で言えば、登場人物がいきなり長台詞で自己哲学や自己思想を語り出して、「なんかとつぜん作者出てきた!」ってなるあの感じ。
人と人が偶然出会って、化学変化が起こって…
というこの種の物語は、徐々に信頼関係が生まれたり、お互いの生き方に影響を及ぼし合ったりするのが常。
だけど、老婦人の過去の問題が大きすぎて、そういう繊細な心の変化や心温まる交流が霞んでしまう。
そして、この物語をフェミニズムの観点から描きたかったのなら、老婦人が元夫の仕打ちに対して残虐な復讐を果たす(暴力に暴力で報いる)くだりはないほうがよかったと思う。単なる被害者ではなくなってしまう。息子も可哀想。
途中で嫌な予感がしたんだけど、予想どおりの結末だった。
これは、一銭にもならないのに老婦人の話を聴いてパリを巡るからいい話なんだと思う。
たとえお金がもらえなくても、2人で過ごしたあの一日にはプライスレスな価値があったと思う。
それが、最後の死と遺産のくだりによって、涙を誘う安易な感動物語に変わってしまった。
余計なオチを付け加えたなぁ、という感じ。
ひと昔前のハリウッド映画みたい。
ここでもまた、金銭的利益のインパクトが大きすぎて、心の交流が霞む。
幸運=金、厚意=金、という物質主義が透けて見える感じ。
タクシー運転手の個人的な問題は、老婦人との出会いにより心の変化や学びを経験した彼が、周囲の大切な人たちと協力しながら自力で解決すればよかったと思う
…だなんてもう言ってられない時代になってきたのかなぁ。現実があまりにも厳しすぎて。
「いい話」なので各国でリメイクされそう。