普通に生きていたら、瀉血なんて言葉は触れる機会はないだろう。かく言う僕も本作で初めて知った。瀉血とは、自身の血液を抜くことで治療効果をもたらすものらしく、昔に信じられていた治療法らしい。
本作は瀉血というタイトルからわかる通り「血」がテーマだ。それもただの血ではなく、家族という血縁だ。
物語は暴力的な兄と他人事で家族というものに諦めを抱いている母親を、主人公である高校生がひたすらに憎む話だ。
本作の監督と主演を務める金子優太さんはまだ20歳。俳優陣の演技などは微妙な部分が多々あるけれど、全編モノクロで、かつ章構成で語られる切り口や撮り方などは鋭くて面白い。特に予告編でもある全身真っ黒の服を来た何者かがネクタイで母親の首を絞めるシーンの下から上にスライドする撮り方が面白い。しかもその撮り方が後半に効いてくるんだから尚のこと良い。コーヒーやコンタクトレンズ、ネクタイなどの小物の使い方も好きだし、特に友人の鍵を奪うシーンで合鍵を作るという一連の流れを手に握った鍵が手を開くと2つに増えているというマジックみたいなことで表現しているのはほんとにすごいと思った。最初はなんで増えた?って思ったけれど、解釈としてはそれしかないはず。
本作を最も特徴づけているのは、本作が半自伝的な映画と銘打っている点。予備校講師が虚構としての映画は観客に対して一方通行だという講釈を垂れる場面があり、このメタ的な演出のおかげで僕は逆に他人事でないように感じられた。主人公は自分も兄みたいにいつかなるんじゃないかという恐怖に怯えているが、僕自身も父親みたいな人間になったら嫌だなと思いながら半ば反面教師的に生きているものの、ふとした瞬間に父親との類似に気づいてしまうときがあるからとてもわかる。一度だけ主人公が玄関先で「ファニーゲーム」的に振り向いてカメラの方を見るシーンがあり(「ファニーゲーム」ほどあからさまではなかったが)、一方通行とは言うものの観るものにとてつもなく訴えてくるものがあった。
次回作を撮るのかどうか分からないけれど、本作みたいなエッジの効いた作品なら観てみたいなと感じた。
以下は個人的なメモ
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第1章 家族割引
「トイレで会ったった言ったじゃん」
「僕の靴下は黒色です」
家族地獄
第2章 ドッペルゲンガー
コンタクトレンズ
瀉血=血を抜いて治療する
大人になることの憧れ
家族以外の他者への憧れ
本体である血液を古くなった身体という容器に移し替える=遺伝
ヨーグルトの蓋を舐める。弟も兄も
予備校講師の虚構=映画への講釈
第3章 殺害前夜
「仕方ないよ、血縁だし」
「フィクションを書く。それが家族に復讐できる唯一の方法だ」
第4章 向こう側へ
カメラ目線
兄に捧げる
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