キャラ、ストーリー、美術、全てにおいてあまりに薄味な作品である。個人的には、21世紀では最悪の『チキンリトル』よりはマシで、『ルイスと未来泥棒』と同等くらいの評価。
『ミラベル』と『ストレンジワールド』も傑作とは言いがたかったところにコレを見せられては、WDASの先行きに大きな不安を抱いてしまう。
■ストーリーとキャラクター
●夢を預ける設定がイマイチ
ストーリーは王道な勧善懲悪もので、やりたかったことは分かる。「夢は叶う」というディズニーのコンセプトを真っ向から否定するヴィランを登場させて、100周年らしい作品にしたかったのだろう。
だが、本作の設定は釈然としない。夢を王様に預けると人はそれを忘れる。王様はその中から自分が選んだ夢だけを叶える。この制度に国民が納得して幸せそうである理由が、よく分からない。
王様の考えにヒロインが反発するのは、彼が叶える夢の基準に納得いかなかったからだが、そもそも王様任せにしている時点で「それはいいのか?」と思ってしまう。自分自身の夢を忘れているとはいえ、叶えてもらえる人間と叶えてもらえない人間がいるのだから、後者の不満は募るだろうに。いっそ「王様が国民の夢を捏造した上で叶えている」くらいの悪事を働いていたら、もうちょっと話に乗れたのだが。
●単線的なストーリーと存在感の薄い脇役
加えて、展開があまりに単線的で広がりも深みもない。たまには王道も悪くないとは思うが、さすがに物足りなさは否定できない。結果として、ヒロインとヴィランの対決に焦点が当たるあまり、他のキャラにスポットが当たらないことも大きな問題だ。脇役たちが重視されていないことは、彼らが主役のミュージカルシーンが存在しないことからも明らかだ。王妃やダリアはもっと生かせただろうに、結局はワンオブゼムに収まり、今ひとつ輝かない。
一昔前のディズニーであれば、間違いなく王妃の代わりに王子がおり、彼がヒロインを助けて一緒にヴィランを倒したことだろう。当然この2人は恋に落ち、デュオで歌うミュージカルシーンがあったはずだ。それはよく知っている話にはなるだろうが、長らく途絶えているのだし100周年なのだから、ラブロマンスも復活させてよかったのではないか。
●ディズニーにあるまじきゆるキャラ
ヒロインとヴィランの次に目立った存在であるスターは、自分が本作に失望した主要因のひとつでもある。デザインがあまりに酷い(これが任天堂に出てくるなら別にいいけど)。センスが日本に毒されすぎているとしか思えない。加えて、コレが相棒になったせいで、他のキャラを十分描写する尺がなかったという弊害もあるだろう。
●印象に残らないヒロインと、どっちつかずなヴィラン
では、肝心のヒロインはどうかといえば、まるで印象に残らない。なぜなら、彼女はほとんど最初から社会的正義のために奮闘を始め、個人的な事柄は出てこなくなってしまうから。つまり彼女の人間性を掘り下げる機会が作中にない。その結果、彼女のキャラクターは、アリエル以来おなじみの「元気でちょいドジなヒロイン」を表層的になぞっただけになってしまった。
ヴィランにしても魅力がなく、また描写が中途半端である。子どもの頃に故郷を焼かれ肉親を失ったという過去から、国家の危険について異常に過敏なキャラクターが出来上がったのだという、いちおう同情に値する設定が用意されている。にもかかわらず、劇中での描写では、単に傲慢な男として戯画化されている。禁書を開いたから悪に堕ちたのか、最初から悪人だったのかも、やや曖昧だ。
久しぶりの「ヴィランらしいヴィラン」でいくなら(そういう宣伝してたよね)、ただ単に権力が欲しいとか支配したいとかいう動機で十分である。偉大な古典的作品の偉大なキャラクターに倣うべきだっただろう。『白雪姫』の女王に始まり、マレフィセント、クルエラ、アースラ……これらの女たちに比べると、昔から男性ヴィランはちょっと格好悪いのが多い。しかし、ガストン、スカー、ジャファー、ハデスたちも、十二分に強い印象を残している。
■アニメーションとアート
本作で目を引いたのは、美術面の試みである。事前情報を遮断して観に行ったので、最初ちょっと驚いた。背景美術は手描きで、線画のニュアンスが残る森の描き方などに往年のディズニーっぽさが見て取れる。100周年記念作である『ウィッシュ』にはいくつものオマージュが見られるが、このスタイルの採用こそはその最たるものだろう。
しかし、全体的にみれば、3Dに2Dを取り込もうという努力もまた、ストーリーと同じくらい失敗しているように思う。というのも、手描き背景とキャラクターの調和がうまくいっていないなど、「単につたない3Dアニメーション」に見えてしまう場面がかなり見られたからだ。特にあの髪の毛は何だ。テレビレベル(『ソフィア』とか『エレナ』とか)のクオリティである。これが上記の試みの結果かは不明だが。
そもそもディズニーは以前から『紙ひこうき』や最近では『ツリーから離れて』のような2Dルックの短編を作ってきたのだから、もっと2Dらしいスタイルで突っ走ればよかったのに、その勇気はなかったと見える。本作の同時上映の短編で見せてくれた、手描き時代のキャラたちの素晴らしい再現は何だったのか。
もちろん単なる2D回帰が正解かは分からない。どうせ手描きは無理だからセルルックCGなわけだし、それは珍しくも何ともない。CGアニメーションの世界では、アートだけでなく商業でも2Dを取り入れたさまざまな試みが現れている。その試みの直近で最も大きな達成はおそらく『スパイダーバース』シリーズだろう。そこまでやれとは言わんが、とにかく本作の方針はあまりに保守的というかむしろ臆病と言わざるを得ない。
これくらいでもう良いかなと思ったけど、最後にひとつ言わせてもらえば魔法もつまらない。動物を大きくするとか話せるようにするとか発想からしてつまらない上に、絵的にもテンション上がる瞬間がほとんどなかった。これは魔法使うシーンに限ったことでなく、ミュージカルも沢山あったのにほとんど感動はなかった。強いていえば、前半にあった王様とヒロインのミュージカルは結構良かったかな。
■エンドロール
第二次大戦中のオムニバスシリーズがないのはともかく、『ビアンカの大冒険』と『コルドロン』もなかった気がするが気のせい?