今のVFXの進化は凄まじく、ディズニーが本気で金かけたらこのレベルの映像が出て来ることに驚く。何やら実写もアニメーションも超越した映像世界を「超実写映画」と呼ぶらしい。もはや遊園地のアトラクションのような映像世界は圧倒的な没入体験が出来る。ライオンの毛並みの書き込みなどリアルを通り越した超リアルで、動物園で透明な板や金網を隔てた世界でライオンを見るよりも妙にリアルである。ライオンだけではなく、キリンや象の動きに独特のカクツキがないのも凄い。実際の寸借はわからないが、背景の岩山のテクスチャーとか波の飛沫や泡の立ち方など一つ一つが際立って見える。物語そのものは『ライオン・キング』の前日譚で、キアラの父親のシンバの父であり偉大なる王ムファサの伝説が神話形式で語られる。つまりキアラにとっては偉大なるお爺ちゃんの話であるのだが、裏のテーマとして後のスカーとなるタカの闇落ちの一部始終が描かれる。
『ムーンライト』のバリー・ジェンキンスの映画は、父から子へ、子から孫へと伝えられる血族の愛情物語でもある。ある日、大洪水で両親から切り離されたムファサはノラの子として容赦ない迫害に逢うのだが、すんでのところでタカの母親に拾われる。それからは兄弟同然として育てられたムファサとタカだったが、そこに領土を拡げようと白いライオン軍団が現れる。その侵略の過程は西部劇そのものである。今回は敵側のライオンをあえて白く描くことで、敵と味方とを視覚的に混同しづらくさせる配慮もあり、視覚的混乱は避けられている。ただムファサとタカによるサラビを賭けた三角関係は思っているよりドロドロで、人間が脚本を書くとやはりこういう感じになるのねという凡庸な感想しか浮かばない。また前日譚と銘打っている以上、血族の歴史が断ち切れるはずもなく、結末がややもすれば決まりきった感じになってしまうのは残念だが致し方ない。ムファサとタカの表情は、リアルになればなる程、ある種ライオンよりも猫に近づいて行く。その辺りの映像センスも勉強にはなる。