ひろぽん

オットーという男のひろぽんのレビュー・感想・評価

オットーという男(2022年製作の映画)
4.2
『幸せなひとりぼっち』のハリウッド版リメイク作品。

いつもご機嫌斜めで曲がったことが大嫌いなオットーは、町の人々から煙たがられる面倒で近寄り難い存在。最愛の妻に先立たれ、仕事も失い孤独に苛まれた彼は、自らの人生を終わらせようとしていた。だが、向かいに越してきた家族に何度も邪魔をされ、死にたくても死ぬことができない。そんな陽気な奥さんのマリソルをはじめとした一家との出会いがオットーの冷えきった人生を変えていく。オットーとマリソル一家の温かい日常を描いた物語。


亡き妻の後を追うために必要なロープをホームセンターで購入する際にもサイズを測るのに納得がいかずクレームを入れたり、ルールを守らない人には説教三昧、挨拶をされても完全無視し、庭に小便をする犬の飼い主には文句を言いつけ、猫に八つ当たりする酷いありさま。

仏頂面で町の人たちからは嫌われ者だが、毎日近所をパトロールして分別されていないゴミを分別し直したり、駐車違反の車に注意喚起をする正義感の強さが行動に表れている。

妻に先立たれ仕事も失い生きる希望を無くすと暇になりこういう方向に走ってしまうんだろうな。

そんな彼でも、向かいの家に引っ越してきた夫婦の旦那・トミーが運転が苦手で代わりに縦列駐車をしてあげたり、必要な工具を貸してあげたりと根っから悪い人ではなさそうなのがまた良い味を出している。


自殺を試みようとするも邪魔が入り、毎回なかなか死なせてもらえない。何度も何度も彼の妻が生きろと手を差し伸べるかのように邪魔が入る。物語が進むにつれマリソル一家やご近所の方々を通して必要とされていることを知り、また生きてみようかなと思える。それだけでも世の中捨てたもんじゃないし、人と人の繋がりや関わり方が本当に素敵。

愛する人も仕事も希望を失ってたとしても、周囲の人から必要とされるって事は、オットーがそれだけ魅力的な人物なのだろうな。

さらに、メキシコ人のマリソル・トミー夫婦の自由奔放で優しさと愛に溢れた性格がとても良い。人の心の扉をこじ開け土足で踏み込んでくる憎めない雰囲気が凄い。心の扉をノックしても返答がないから、強行突破して壁を取っ払ってくる感じがたまらなく好き。着飾らない自然体な振る舞いで人の懐に入るのが上手い。そして、マリソルのおすそ分けする何かは分からない手料理が美味しそう。

何よりも、オットーが生まれつき心臓が大きいという難病で倒れて入院した時に、“ハートが大きい”という深刻な場面でマリソルがツボに入って笑い転げてる描写が面白かった。それを見ていたオットーが怒り出すかと思ったが、一緒に笑うというのが良かった。

シボレーVSフォードの車対決はやっぱり男のロマンと拘りがあって良い。傍から見るともっと相手のことを尊重してあげたらそんなに争わなくても済んだのにと思うけど…。男の喧嘩はしょうもない。


町の面倒で手のつけられない偏屈な老人にも、そうならざるを得ない過去があるのだと思うと色々考えさせられる作品だった。

オリジナル版を先に鑑賞していたので話の内容に既視感があって楽しめるのか不安だったが、やはりトム・ハンクスの表現力が素晴らしく楽しむことができた。彼の息子が若かりし頃のオットーを演じているが、トム・ハンクスが演技指導をしたそうで、演技経験が全くないのに見事自然体で演じているから本当に凄いと思う。

オリジナル版の方が妻への深い愛を表現していたので、個人的にはオリジナル版の方が好き。でも、トム・ハンクスが好きだから、作品自体は本当に良かったと思う。初見だったらもっと感動があったと思うから記憶を消してもう一度観たい。

人生や幸せ、周囲との関わり方について深く考えさせられる作品だった。人を愛すことも大切だが人から愛されることも大切で、それが生きる大きな意味なんだと思う。
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