晴れない空の降らない雨

椒⿇堂会の晴れない空の降らない雨のレビュー・感想・評価

椒⿇堂会(2021年製作の映画)
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 現代中国映画祭2024にて。自分含め、「近年最高の中国映画」という謳い文句に誘われた人が多かったのか満席だった。四川オペラの役者であり軍閥時代から現代までを生き抜いた監督の祖父の人生に基づくストーリーである。
 
 映画はしばしばセットの安物感を露呈させ、それによってむしろ自分自身を舞台芸術に接近させ、折衷的な画面を作ろうとしている。舞台っぽさはまた、他のいくつかの要素によって強められている。例えば、独特のリズムがあるセリフ、登場人物の様式的な演技など。あるいは、奥行きがなく、ただ左右の移動だけが行われるショットが度々登場することによっても。こういった舞台芸術への接近は、主人公が舞台芸術に人生を捧げたことと不可分であろう。
 
 ストーリーも、軍閥時代、日中戦争、国共内戦、大躍進政策による飢饉、文化大革命……と中国現代史(率直にいって悲惨そのものである)を垣間見ることができて、とても興味深かった。
 明記しておきたいのは、出来事の悲惨さにもかかわらず本作が喜劇的な調子を決して失わないことである。これもまた、主人公が喜劇役者であることと無関係ではない。例えば、映画序盤では親に棄てられた幼少期の主人公が劇団に半ば強引に仲間入りするまでを、おどけた芝居と会話で描いている。劇団立ち上げの頃の練習風景も楽しい。終盤になっても、文革期の価値転倒ぶりや毛沢東かぶれの息子(監督の父)を苦笑とともに描き出しており、劇場から笑いが聞こえる一幕もあった。
 そして現代史のクロニクルの合間合間に、死後の主人公らによる会話劇が挟まれるのだが、ここにも悲壮な様子はまるでなく、牛頭・馬頭ら冥界の住民とマージャンを楽しんだりする。