ブラックユーモアホフマン

ミッシングのブラックユーモアホフマンのレビュー・感想・評価

ミッシング(2024年製作の映画)
4.0
前半は中村倫也演じるテレビの報道番組のディレクターがほとんど主人公と言ってもいい。実際にこういうことが現実にあるなかで、それを題材にして映画を作るっていうことも結局、中村倫也が対立するテレビ局の周りのスタッフたちと同じように、食い物にして“面白いもの”として消費してしまってることになってないか、ということを作り手は絶対に考えなければならなくて、その意味でこういうキャラクターを当事者との間に置くことで、ちゃんと考えて悩みながらやってるんだと示すことは、すごく意地悪な見方をするなら言い訳がましいとも言えるけど、でもやっぱり真面目に誠実に作ってるってことだなと安心して見られるのでいいと思う。

だから中村倫也の言う「僕はただ事実を撮りたいだけ」に対して柳憂怜の言う「その事実が面白いんだよ」はクリティカルなセリフ。事実って面白くて、それってメディアはどう扱えばいいんだろうって本当に難しいところ。

しかし日本映画ってこういう映画多いよな……石井裕也監督『月』、石川慶監督『ある男』、西川美和監督『すばらしき世界』、是枝裕和監督『怪物』、李相日監督『流浪の月』、戸田彬弘監督『市子』、片山慎三監督『さがす』、近年自分が見たものの中だけでも、このへんってざっくり言うと全部同じジャンルじゃないですか。そういう映画が悪いと言ってるわけじゃないし、もちろんそうじゃない映画も沢山あるんですけど、それにしてもなんか多くないですか?傷ついた人の悲しみにフォーカスして、その背景にある社会が抱える問題までを見据えたような映画というか。どれも真面目に誠実に優しく作られた映画だとは思うのだけど、しかしだからこそというか、言い方本当に悪いけどどれも似たり寄ったりにも思えるというか……脚本や演出はいいんでしょうけどそもそも企画の時点で窮屈な感じがするというか……真に新鮮なものは生まれてこないというか……ケチつけづらいジャンルなので微妙なところなんですけど、ちょっと多すぎないかなというか、変わり映えしなさすぎないかなというか……。

子供を誘拐された親が主人公の映画というと、ドゥニ・ヴィルヌーヴの『プリズナーズ』とかも近い感じだけど、あれはヒュー・ジャックマンが常軌を逸していくのが怖くて面白い。でも現実に同じ立場の人もいると考えると、そういう人のことを悪く描くのは良くない、とも思う。洋画なら少し距離感をもって見られるからあまり気にならないのかもしれないけど。とするともう、最初からがんじがらめな設定ではあるなと思う。

泣いたり叫んだりはありつつシラけちゃうようなオーバーアクトには見えず良いと思いました。石原さとみは本当に大変だっただろうなと勝手に労いたくなりました。

タイトルが出たまま、ボケた背景が天国から地獄へ残酷に切り替わるのとか、さすが吉田恵輔監督はこういうの上手だなと思った。

森優作と中村倫也の2回、ガラスの向こうで何て言ってるかは聞こえないけど、すごい剣幕で文句っぽいことを言ってる顔を映すっていうのをやってて、あれはギョッとして怖かったし発明だと思った。結構、Jホラー的な発想というか、何かを一枚挟んだ向こう側でなんだかハッキリ分からない感じというのが、黒沢清で言うビニールカーテンみたいな効果だし、『ヒメアノ〜ル』も後半ガッツリサイコホラーだったわけだし、ホラーのセンスある。石原さとみが失禁しちゃうところとかもホラー的な演出な気もするし。吉田恵輔監督の撮るド直球ホラーも見てみたいものだ。

悲しすぎて背負ってる物が重すぎる人って、他人からするとその悲しみの深さは想像もつかないから、もはや恐怖の対象にすらなり得ちゃうんだよね、って思ったのって何の映画だったっけな……前述したうちのどれかだったかもな……。いや『ぐるりのこと』とかかな。

【一番好きなシーン】
・弟の車でちょうどラジオからライブ見に行ってたバンドの明るい曲が流れてくる皮肉っぽい演出もいい
・ラスト、なるほどそうやって落とすか〜うまいね〜と感心