フランス映画『パリ 嘘つきな恋』(18)のリメイクというが、オリジナルは観ていない。ジャンニ(ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ)はハンサムで独身、スポーツマンで女たらしの49歳。一流のアスリートをフィーチャーする有名シューズブランドの社長でもある。このジャン二という男の性格がなかなかの曲者で、会社では利益追求型のエゴイストで、会議の席でインターンの女性をパワハラでクビにするなど、どうも人間性に難がある。秘書のルチアナ(ヴァネッサ・スカレーラ)の名前はいかにも田舎臭いからと人前で平気でルーシーと呼んだり、何か完全に20世紀で時代が止まったような古臭い男である。然しながら49歳にして恋にはお盛んで、女性を口説くためなら何でもする彼は、母親の遺品整理で生家を尋ねたところ、グラマラスな隣人にバッタリと出会ってしまう。いかにもラブコメと言う始まり方だが、イタリアの巨匠リッカルド・ミラーニの非常に上品な作品のルックにまずは魅了される。まさにイタリア映画的な上品なルックに加えて音楽も良い。
最初は妹を好きになるのだが彼女の生家を尋ねるとそこには綺麗な姉がいてと言う展開が随分物珍しく感じる。パリで行われるパラリンピックのシーズンにぶつけたような内容には新味もある。嘘から始まる恋の気まずさったらない。いつか訂正しようとしても付いてしまった嘘が嘘だけに、なかなか言い出せない。だが流石に五体満足な人間が障碍者だと詐病するのはいささか問題では無いか?ラブコメだけにある種の馬鹿馬鹿しさや爽快さが求められるのだが、そこにデリケートな問題を当て嵌めてしまったために物事の道理が難しくなった。最初から名優ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ演ずるジャン二の独り相撲が凄い。いや、正確に言えば観客はいるから独り相撲ではないのかもしれないが、今作に登場する女性たちは皆一様にジャン二の心の内などとうの昔に見透かしている辺りが痛快だ。彼が最初から冷笑したルルド巡礼の旅で決定的な何かは明らかになるが、実はジャン二がシューズ・メーカーのTOPだったり、ジョギングが趣味だったりするところに最初から伏線は張り巡らされているわけだ。ヒロインを演じたミリアム・レオーネの女としてのしたたかさ、そして彼女の妹を演じたピラール・フォリアティの愛嬌。二卵性双生児の弟のエピソードはあまり膨らまないが、中盤の水の中のSEXシーンには痺れた。イタリア映画らしいバランスの取れたウェルメイドな作品である。