このレビューはネタバレを含みます
全部正しい人は目指さずに、良い瞬間がある人でいい。
負け組ミーツ負け組もの。高みで上手くいかなくなり落とされた者と、低いところしか知らない者たちが出会って上がっていく物語。『カーズ』と同じ状況。監督は、おれの居場所はここじゃないという驕りがある。選手たちは、別にここでいいという怠けがある。逆のことを言っているんだけど、双方よくない考え方をしている。それが次第に、監督に感化された選手たちは、自分たちも本当は勝ちたいと闘志を燃やし、キツい練習も頑張るようになっていく。監督は、選手たちが尊重すべき人間であることに気づき、「今この場所」を直視するようになる。他の場所に行きたいとぐずることも、向上心を捨てることもやめて、自分がいる場所を高みにするという考え方に変わる。どちらか正しい方が導くのではなく、真逆の問題を抱えたお互いの響き合いで変わっていく。
そう簡単には成長できないし、それでいい。オーナーが奥さんにやらせたマトリックスもどきの導きの言葉。悩める主人公の問題の本質を指摘する人間が現れて主人公に決意を促す、という映画あるあるをフリにしたおふざけ。でも、そこから主人公は、自分がサッカー界の中心から捨てられたことにやさぐれるのをやめて、現実を認め、熱のある指導を始める。しかし、本人のやる気に関しては見つめなおすけど、まだ選手たちを認めてはいない。出来損ないたちだと思っている。一発で欠点が直るわけではない。だからと言って、そこまでの歩みを否定する空気もこの映画にはなく、傲慢さや間違いを残しながらの前進も一歩前進として立派である、と感じ取れる。過ちと成長について白黒つけていないのが良い。選手たちを認めるようになって迎えたクライマックスの試合で、監督はイライラして暴言を吐く、序盤から問題視されていた一番目立つ短所を発揮する。頼り方が下手で、仲間に何かを求めることができない。でも、実際には求めてしまうので、お願いもしないくせに、望み通り動いてもらえないと腹が立つ。それの根本的解決が物語が終わるまでに都合よく見つかりはしない。ただ、自分の悲しみを他人に話して、頼るゆとりを持つ。ベンチに戻ってからのリラックスした姿が、不器用だけど今は大丈夫と安心していて良かった。この映画はスポーツシーンを熱く描かない。最後の試合、あっさり目に得点の瞬間を描き、勝ったのは事後報告で試合の経過はさくっと回想される。劇的な成長を求めていたら、息が詰まる。だから、スポーツのシーンで熱さが控えめなのも、このくらいぬるっと成長していく現実でいいんだよ、と示しているようだった。