いつもすべてが新しい。
「完璧な日々」というタイトルで、繰り返しのような日常を淡々と描くヴィム・ヴェンダース。不安を煽る事も好奇心を刺激する事もなく、エンタメ性を取っ払って描く「今この瞬間」。
母親が礼も言わずに去っても、子供が無事に戻ったので微笑む。同僚が不真面目でも、やる時はやるので微笑む。金がなきゃ恋ができないと言われたが、カセットテープの価値が分かって微笑む。ホームレスに、朝陽に、そして木漏れ日に微笑む平山。
どうでもいい事にムカつくのは簡単だが、些細な事に喜ぶのは難しい。無いものを嘆くのは簡単だが、有るものに感謝するのは難しい。毎日が同じ日々と思うのは簡単だが、いつも新しい日と思うのは難しい。今日が、今が、この瞬間が有る事が奇跡で、有る事が難しいと書いて有り難い。平山のように不足を探さず、充足を味わう事ができれば完璧な日々だ。
要らない写真は破り、良い写真だけ保管する平山。嫌な事は忘れて、良い事だけを胸にしまうようだった。完璧なルーティンを崩すのはいつも他者の存在だ。誰にも干渉せず独りで生きても、人と関わり、人と繋がる。川と海は繋がり、「今」と「今度」は繋がり、マルバツを書く誰かさんとは紙で繋がる。人との繋がりは面倒で厄介で、そして素晴らしい。
ラストの表情がたまんない。過去と現在と未来が混ざり合ったような表情でグッときた。深い作品だったな…胸に沁みた。目が覚めると一番最初に朝陽に微笑みたい。