このレビューはネタバレを含みます
ヴィム・ヴェンダースの感傷。
自分にとって不要なものを全部削ぎ落とし、内省が及ばないよう全力できっちり仕事をこなすという"ルーティン"を人生に課した男の物語。
カセットテープの選曲も本のチョイスも
行きつけの飲み屋も出来杉くん的に平山という男性の嗜好性をよく表している。
木漏れ日に象徴されるような平山が
"守っている"優しい世界は私も好きだ。
しかし、日々同じ作業のルーティンワークはかなりの意思の強さと、映画内の描写にあるように透明人間のような存在であることを受け入れる覚悟が必要な仕事でもある。
温厚な平山が突然の仕事の負担に怒りを露わにするシーンで、優先されるべきが毎日同じ質量の"ルーティン"ライフ(自分にとっての完璧な日常)そのものであることがわかるのは興味深い。
恐らく違う選択の余地もあった平山。
「選んで」この生活を送っていることに好意的でないレビューも目にする。
平山の過去は明かされないが、「パリテキサス」のトラヴィスの陶酔とも似ているように感じた。
やはり私自身、ヴェンダース作品の美学を素直に受け取れないところはあるのだけど、現実社会でも誰かが大切にしている繊細さを他人が干渉すべきではないとも同時に思う。
優しい人が脅かされない世界であるように祈る。
ほか諸々
「かぞかぞ」で河合優実の弟役をやっていた吉田葵くんが出ていて嬉しかったな。
プレイリストの中の「青い魚」
この時代のキャロル・キングみたいな歌唱法がとても好きです。
姪っ子のnico
Velvets好きの平山の命名かな。
距離のある妹との抱擁シーンは海外の監督らしい演出だなと私は感じました。
平山の夢として挿入されるモノクロ映像がまさにヴェンダース!