〈2025/1/13加筆修正〉
フォロワーの皆さん!お待たせしてしまい、申し訳ございませんでした!
5月28日に初めて本作を観て咀嚼し切れなかったため、時間を空けて6月15日に再鑑賞致しました。
そこで生じた思いを9月30日に公開するという、4ヶ月越しの熟成レビューとなります。
時間を置いたことでまとまってきた考えもあるので、お時間のある時に読んで頂けると嬉しいです。
前置きはこの程度に致しまして、早速本編へと入っていきます。楽しんでって下さい!
真実を物語ること。
最初に結論を申し上げると、本作は高く評価できる作品かつ、自分の好みでもありました。
現段階の2024年ベスト映画トップ10にも、当然ランクインしております。(2024年9月30日現在)
というのも趣味で創作活動、それも主に小説執筆をしておりまして、何を隠そう本作は小説家の夫婦の地獄が、裁判を通して語られていくといった内容ですので、一致はせずとも思い当たる節を幾つも見出すことができました。
そして、昨今強い興味を示す人間の不理解性とでも言いましょうか、日々を過ごすには、他者同士が連帯しなければならないにも関わらず、その連帯は絶対に完全な連帯にはならないという、人間が普遍的に抱える問題を、物語として、まさに「映画」として形にした本作には共感せざるを得ませんし、自分のための映画であると、鑑賞中何度も思いました。
意図的に作られた余白も多いですので、語り口は多種多様なものがあると思われます。
今回のレビューでは冒頭にも書きました、「真実を物語ること。」というテーマで論を進めていく所存です。
本作には無数の真実が散りばめられ、そのどれもが話者にとっての、たった1つの真実として存在しています。
本作の主人公はザンドラ・ヒュラー演じるサンドラではありますが、裏の主人公、ひいては真の主人公は間違いなく、ミロ・マシャド・グラネール演じるダニエルでしょう。
クライマックスにて、彼が法廷に立ち、己の選んだ道を話し、それが結果へとつながっていく過程を見れば明白なことかと思います。
夫は如何にして死んだのか。その答えは、畢竟どうでもいいのです。真実を語ること。その行為、行動に身を置くことに意味があります。
小説家という職業の人が主役を張っていることは、このテーマを語る上で、鋭く機能しています。
小説家は、虚構の世界を真実として語る仕事です。
その作られた真実を、消費者は楽しむのです。
作られると聞くと、恐怖の念を覚えるかもしれません。
でも、それらを喜んで受け取っている側面が、誰しもあることを忘れてはいけません。
作られることの功罪を、すべて余さず居心地悪く描き続ける、この最悪のストレス体験ができるという点において、この作品は大成功と言っていいと思います。
小説家が照らす光の部分もあれば、逆にそれが都合の悪い真実を作り上げる道具にもされてしまう。こんなに痺れる展開があるでしょうか。どれだけ続いてもらっても構わない。もっと見せてくれと、劇場の座席に座りながら心の中で叫んでいました。
人間の不理解性が、真実が語られていく中で浮き彫りになっていく。あの気まずさと言ったら、相当なものです。
争点にもなっていた音楽も然ることながら、映像の雄弁さも担保されており、冒頭の事件が起こるシークエンスだけでも、既に鑑賞料金の元を取ったのではと思えるほどのクオリティだったと思います。(「落下するボールを追う犬が、印象的に切り取られている」と言葉にするだけで、観た方は確かに!と納得して頂けるでしょう)
先ほども示しました通り、裏の主人公、真の主人公はダニエルです。彼が「真実を物語ること。」を獲得するまでを描いた、成長譚と言っても過言ではないのです。
最初と最後で確実に変化した彼が映されることで、物語に1本の筋が通り、観やすくなっているとも思います。
その変化の善し悪しを、観客に委ねているところも憎いポイントです。
まんまと制作陣の手の上で踊らされ、良くも悪くも楽しんでしまいました。
あと、本作を語る上で避けては通れない、犬の活躍にも触れておきましょう。
本当に、犬の演技が素晴らしかったです。
全く演技をしていることに違和感がないし、家族との関係性や犬なりの思考が見えるようで、これを名演技と言わずして何を名演技と言うのか分かりません!
後半で苦しい状態になりながらも耐える姿には、思わず犬に感情移入をしながら観ておりました。
ただこの辺りで不満点も書いておきますと、152分という尺は作劇上意味を見い出せるとはいえ長く感じましたし、画的にも地味な場面が続くので眠気を誘ってくるという問題点はあったかと思います。
これは本作の語りたいテーマを鑑みれば仕方のないことでもあるため、総合的に判断して上記の評価に落ち着くことになりました。
総じて、脚本にダニエルの成長を据えることで観やすくしつつ、長時間に渡る人間の不理解性の確認と、真実を物語るという行為についてを法廷劇というパッケージで語った良作でした!