櫻イミト

落下の解剖学の櫻イミトのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.0
2023カンヌ・パルムドール受賞。主演のザンドラ・ヒュラーは同年カンヌ・グランプリ受賞の「関心領域」(2023)でも主演を務めた。アカデミー賞脚本賞受賞。

作家夫妻と弱視の息子、ペットのボーダーコリー。ある日、夫が家の前で落下死しているのが発見される。自殺か他殺か。容疑者となった妻は旧知の男性に弁護士を依頼し裁判が始まる。。。

とても面白い人間ドラマだった。ミステリー要素を含んだシナリオを用いて夫婦と親子それぞれの個を剥き出しにし、家族という最小社会を通して人間の分断と共生を描き出そうとしている。第三の家族であるペットが添えられているのもミソ。シナリオの力がずば抜けて強い。想像の余地を残した表現も好みだった。

撮影は“観察系”のカメラワークを使っていた。今年の邦画「ナミビアの砂漠」(2024)でも用いられていた手法だが、そのまなざしの主体と意味合いは少々異なっていた。

あまり言及されていないが、気になったのは息子が犬の頭のにおいを何度も嗅ぐ布石。終盤、母親に同じことをする機会があった。弁護士のにおいに気付いたかもしれないが言及はない。ただ、善悪を知らない愛犬とは違う。

アーティストやクリエイターが社会(家族)とどう折り合いを付けながら生きていくか?個人的に身に覚えのある悩みがリアルに提示され共感するところが多かった。創造に関わっていないとピンと来ないかもしれない。

※ジュスティーヌ・トリエは女性監督としては史上3人目のパルム・ドール受賞。
1人目はジェーン・カンピオン監督「ピアノ・レッスン」(1993)
2人目はジュリア・デュクルノー監督「TITANE /チタン」(2021)
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