晴れない空の降らない雨

ユニコーン・ウォーズの晴れない空の降らない雨のレビュー・感想・評価

ユニコーン・ウォーズ(2022年製作の映画)
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 確か映画祭でたまたま観た『サイコノータス』の監督。同作はストーリーは全部忘れたけど、デフォルメされたデザインと、それに似つかわしくない嫌な意味で人間くさく意地の悪いキャラクターたち、そして割と剥き出しのセックスおよび暴力表現などが印象に残っている。
 本作はその方向性を突き詰めた感じと言えそう。ファンシーカルチャーを取り込みながら、やっていることは変態と残酷趣味の極みであり、意地悪なパロディである。ロックというか露悪というか。

■ぬいぐるみモツ
 ストーリーを一言でいえば、擬人化されたテディベアと森に住むユニコーンが殺し合う。そして『旧約聖書』を下敷きにした、「こんな創世記は嫌だ」と叫びたくなるような話。
 テディベアのキャラクターたち(♂)の容姿は「和製ポップカルチャーを欧米流に解釈したデザイン」に見えるが、まるでその生皮を剥ぐかのような描写が続く。もっとも、「ゆるキャラ使ってエグい話」は本邦でも『ちいかわ』はじめ既にありがちなパターンではあるが、本作はその比ではない。
 最初の『フルメタルジャケット』パロディなんて可愛いもので、彼らはなぜか鏡の前でウットリし、自分の美しさを仲間たちにアピールする。あるキャラは化粧をして目元のシワを隠して自慢大会に参加し、そのことを暴露されると激昂してボコボコにする。初っ端からこの世界の価値観や文化に付いていけない。
 そして普通に「チンチン」が出てくる。あれ、「ぬいぐるみペニス現象」ってこんなに文字通りの意味だったっけ。おいおい…と薄笑いを浮かべて観ていたら、しまいにゃ小便を覗いたの覗かないのといったやりとりが出てくるわ、挙げ句の果てに「見てもいいよ」とか弟が兄に言ってきて、もう気持ち悪すぎて意味不明。
 そして付いていたのはペニスだけではなかった。聖なる森に攻め入ってからは血みどろ、肉体欠損、臓物がこれでもかとぶちまけられ、途中のエピソードも悲惨だ。
 冒頭からなぜか主人公のことを弟が異常に嫌っているのだが(かと思えば甘えたり擦り寄ったりするから性質悪い)、その背景となる回想が差し挟まれる。両者の関係はカインとアベルを踏まえたものだろう。

■バンビの串焼き
 無惨に殺されるのはユニコーンも一緒だが、敵対勢力としてユニコーンを取り上げた理由も、まぁ女児向け人気作品に対する嫌がらせが大部分を占めると捉えてよさそうだ(ディズニーのTVアニメ『スター・バタフライ』では生首だけのユニコーンが主人公の親友として登場するが、その意図は似たようなものだろう)。もっとも、ユニコーン=純粋無垢の象徴であるからテーマ上の必然性もあるのだが。
 極めつけは舞台となる「聖なる森」の背景や動物たちのディズニー感だ。リスや鳥たちのアニメーション、また樹木の質感なんて見事に初期ディズニーでちょっと驚く。火を放たれる展開からしても、作り手が『バンビ』を踏まえているのは間違いない。
 この「聖なる森」は、聖書においてアダムとイブが追放される楽園の位置づけだ。しかし、テディベア=人間にとっては楽園でなく害虫や毒性植物のある危険地帯でしかない。生き残った弟のその気づきが、戦争の目的を奪還から殲滅へと転換させることになる。
 ここにも本作のヒネリがある。ディズニーの伝統と異なり、本作で自然は単に称揚されているわけではない。その差異を強調するためのディズニースタイルである。いくら憧れを持とうと、人間は自然から疎外された存在でしかない。

■ラストについて
 最後に現れたもの、あれは何だろうか? 答えは見た目ほど単純ではないと考える。というのもテディベアたちはすでに十分に人間だったからだ。

■最後にひとこと
 海外アニメが宮崎駿リスペクトすんの、好い加減に飽きました。観ている方が恥ずかしくなるのでやめてほしい。