主演のポール・キルシェがイレーヌ・ジャコブの息子だとわかっていたので、この若い俳優さんを応援するような気持ちで観ました。最近の彼女はどんな活動をしているのでしょうか。「ふたりのベロニカ」などで魅了された当時を想うと、その息子さんが映画に主演するなんて、ちょっと感慨深いです。
劇中で母親を演じたジュリエット・ビノシュ(「トリコロール」つながり?)も含めて、それぞれ父親や夫を亡くした喪失感などは、うまく表現されていたと思います。
ただ、父親の死の真相が曖昧なままことはいいとして、高校生のリュカにとっての父親の存在がどんなものだったのか…、もう少し明瞭にならないと彼の心情を理解しにくいです。ところどころフラッシュバックで家族の日常生活を追想するようなシーンがあれば、母親の悲しみにも共感できたはずです。
なんとなく、父親の死が物語の背景にとどまって、そのメインはリュカがパリで過ごした日々になっているようでした。彼の若く不安定な精神状態、性的指向による葛藤なども重要なテーマでしたが、ゲイであることに伴うエピソードが強調されてしまい、どのテーマをどのように受信すればいいのか戸惑います。日本では性的マイノリティという概念が日常生活に定着していないので、それが特別な印象を伴ってしまうというリスクもあります。
後半にリュカの精神が崩壊してしまった理由は、そうしたさまざまな要素が複雑に絡まり、彼自身で収拾できなくなったからだと思います。彼の心の再生に導く登場人物たちの振舞いも示唆的で、そんな余白も興味深いと思いつつ、父親と息子の関係性にもう少し視点を絞った物語が観たかった気分です。自分のニーズにマッチしませんでしたが、映画そのものはとてもいい雰囲気の佳作だと思います。