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ブラックバード、ブラックベリー、私は私。/ブラックバード、ブラックバード、ブラックベリーのnetfilmsのレビュー・感想・評価

3.8
 ジョージアの小さな村に暮らす48歳の女性エテロ(エカ・チャヴレイシュヴィリ)は、いままで結婚したいと思ったことは一度もない。両親と兄を亡くし、日用品店を営みながら一人でストイックに生きてきた。自分で摘んで作るブラックベリーのジャムと同じくらい、彼女はいまの独身の暮らしを愛している。いわゆる「おひとり様」を満喫中の中年女性が主人公の物語である。人は誰かの助けを借りなければ生きていけないと人は言うが、「おひとり様」を満喫しているシングルに言わせれば他人はノイズでしかない。自分一人であればその日のスケジュールを幾らでも足したり減らしたりが可能だが、2人になると妥協せざるを得ない。だが、彼女が未だに一人でいることは村の女たちの噂の的なのだ。そんなある日、エテロは崖から足を踏み外し転落してしまう。何とかひとりで崖から這い上がったものの、臨死体験をした彼女は、突発的に人生で初めて男性と肉体関係を持ってしまう。そこから人生が変わり始めるエテロ。人生の後半戦を前に、彼女は突然動き出した運命に静かに力強く挑んでゆく。

 今作のヒロインの動機は突飛に思えるものの、これこそが「吊り橋効果」ではないか。恐怖や不安、興奮、運動などによって心拍数が上がりドキドキしているときに、そのドキドキを相手への恋心だと勘違いする心理現象を呼ぶその言葉に主人公女性も引っ張られて行く。その瞬間、ティーンのように秒速で通過儀礼の儀式を行うからビックリする。私などが観るよりも明らかに上野千鶴子案件であって、林真理子や川上未映子に軽く舌打ちするような中年女性案件なのだが、ジョージアの監督であるエレネ・ナヴェリアニのルックがもう完全にアキ・カウリスマキでそれ以上でも以下でもない。カウリスマキの映画以上に女性たちは一切笑うことがなく、伏し目がちな表情をしがちだし、エテロはムルマン(テミコ・チチナゼ)とも村の人々とも安易にフュージョンしようとしない。それゆえ、村のパンキッシュな娘にやたら熱心に話し掛けるのが気になるが、子宮がんを疑う彼女の身にルーマニアで起こった悲劇のような喜劇に「ふぁっ」となってしまった。日本では絶対に映画にならないような中年世代の静かな叫びを映画化した作品はこれが最新のジョージア映画であるという点がまず尊い。共感は出来なかったが、ニッチな映画として今作が存在することに心地良さを感じる。
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