こなつ

リアリティのこなつのレビュー・感想・評価

リアリティ(2023年製作の映画)
3.8
ドキュメンタリーでもないのに、録音された会話を文字起こしして役者が話し、その時と同じような状況で演じている。こういう試みは過去にあっただろうか?劇場鑑賞を逃して気になっていた作品を観た。トランプがまたしてもアメリカ大統領になり、2016年の大統領選で噂になったロシア疑惑はその後どうなったのか?この作品は、そのロシア疑惑の情報をリークした1人の女性の話だった。

2017年6月3日、買い物から帰って来たリアリティ•ウィナー(シドニー•スウィーニー)は、男達に呼び止められる。FBI捜査官のギャリック(ジョシュ•ハミルトン)とテイラー(マーチャント•ディヴィス)だった。彼らは家宅捜査の令状を持っていた。家の奥の部屋で彼女への事情聴取が始まる。この作品は、彼女とFBI捜査官の会話を忠実に再現したドラマである。

リアリティ•ウィナーは、アメリカ国家安全保障局(NSA)の契約社員として働く25歳。ペルシャ語を英訳する仕事をしていた。他にもパシュトー語やダリー語を話せる。空軍の退役軍人だった彼女は、アフガニスタンなど海外での仕事を希望していたが叶っていなかった。そんな彼女がある情報をNSAから持ち出してメディアにリークした。匿名で送られてきた情報なのにメディア側のミスにより、身元がばれてしまう。そのメディア「The Intercept」は 、あのスノーデンがリークしたメディアだったが、多くの情報を漏らしたスノーデンとは規模が違う。自分の現状の不満からたった1つの情報をリークした愚かな1人の若い女性なのだ。そんな彼女は個人の情報漏洩罪としては史上最長となる懲役5年が言い渡され服役した。これは、国民への見せしめ?アメリカでは有名だという彼女のことを私はこの作品で初めて知った。

107分に及ぶリアルな記録。文字起こしされた映像には黒く塗り潰された部分もあり、この逮捕劇の裏にはもっと根深いものが潜んでいると感じたが、録音通りに咳払いまで細かく演じている前代未聞の再現ドラマに仕上がっている。

「第2のスノーデン」と言われたリアリティを演じたシドニー•スウィーニーが、次第に追い詰められていく不安を表情や仕草で見事に演じ、素晴らしかった。本人とも顔の輪郭や雰囲気が似ている。容疑者に対する張り詰めたFBIの捜査や周りの雰囲気は、実際の録音テープに沿って撮影されていたので、まるでドキュメンタリーのような印象を持った。静かだが実話の力強さがあり、見応えのある作品。面白かった。

このレビューが本年最後となります。皆様、一年間有難うございました。また来年も宜しくお願い致します。

良いお年をお迎え下さい。
こなつ

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