「ナレーション:窪塚洋介」に惹かれ、クラウドファンディングのリターンで試写会に参加。
山奥で孤独に暮らす老僧に、ヤクザの元組長が弟子入りする話。
フィクションに思える設定だが、驚くなかれ何とドキュメンタリーである。
本作は以下2名の人物を7年間に渡って取材したもの。
川口和秀:大阪のヤクザ・二代目清勇会の元組長。内部抗争により2022年に上位組織から絶縁処分を受け引退。
舎弟が起こした殺人事件の共同正犯として22年の懲役刑に服した過去があり、出所以降は冤罪の危険性を訴えるため文筆活動に勤しんでいる。
ヤクザとその家族が受ける人権侵害に焦点を当てたドキュメンタリー『ヤクザと憲法』の主人公としても有名。
村上光照:仏教界では伝説的な存在である僧侶。かつてはノーベル賞受賞者の湯川秀樹氏の指導のもと京都大で素粒子物理学を研究していたが、在学中に座禅と出会い、科学者の道を捨て僧となった異色の経歴を持つ。
寺も家族も持たず、伊豆の山奥で清貧な生活を送っている。彼を敬愛する仏僧は多く、日本各地さらにはヨーロッパを行脚して座禅指導を行っている。
主役の2人はどちらも魅力的で、浮世離れした唯一無二の存在感を放つ。
禅道も極道も自分には無縁の世界なので、日常の描写が新鮮で面白かった。
かたや血なまぐさい裏社会を生き抜いた強面の侠客、かたや虫も殺さない温和な高僧。
まるで正反対の2人だが、所謂「普通の生き方」を捨てたという点では共通している。
村上は、教えを乞う川口を柳のようにいなしつつ、示唆に富んだ言葉を独り言のように呟く。
川口は戸惑いつつもその言葉を受け止め、ひたむきに禅に取り組む。
刑務所で20年以上修行僧のような生活をしていたことが幸いしてか、驚くほどすんなり禅の思想を受け入れていた。
上映後、木村衛監督、主役の川口和秀氏、東海テレビ・阿武野勝彦氏(『ヤクザと憲法』プロデューサー)を交えてトークライブが開催された。
刑務所や警察、ヤクザに関するオフレコだらけの裏話は刺激的だった。
ヤクザを辞めた後の変化について聞かれた川口氏が
「中身はなんも変わらんよ。看板下ろしても侠(おとこ)をやめたわけやないから」
と答えていたのが印象的。
川口氏の佇まいは凛々しく、真顔で冗談を飛ばすユーモラスな一面もあり、ヤクザ/堅気を問わず周囲から慕われるのも納得の御仁だった。
帰り際に握手でもしてもらおうかと思ったが、暴対法・暴排条例に抵触する恐れがあるので控えた。