「空売り」の株取引を描いた群像劇は、「マネー・ショート 華麗なる大逆転」が傑作ですが、登場人物たちが大儲けしたにもかかわらず、エンディングには悲壮感や虚無感がいっぱいで、中盤までのポップな作風が一転する印象的な演出でした。
この作品も株取引の勝敗をめぐる顛末を描いていますが、ごく最近の実話として結末をわかっているので、全編にわたってポジティブな雰囲気があります。その反作用でハラハラ・ドキドキさせられることもないので、映画としての面白さは半減してしまった印象です。
フィクションとしての脚色に工夫があるし、とてもいいテンポなので、終盤まで飽きさせない展開は、庶民になじみのない業界の物語でもエンタメに昇華させてしまうハリウッドのすごいところだと思います。「マネー・ショート」(登場人物が突然に解説をはじめるメタっぽい演出が必要なほど難解)と比較すると、株取引の知識がなくてもわかりやすい構成にもなっていました。
主人公は個人投資家やヘッジファンドだし、群像劇の宿命で登場人物が多いことは理解しますが、そこに当事者であるGameStopの経営陣たちが含まれていません。なんだか違和感がありましたが、株取引というものが、当事者を無視したマネーゲームになっていることを風刺したかったのかもしれません。
そもそも株式の仕組みは、特定の企業を支援するために資金を提供(投資)し、その利益を株主配当というかたちで共有するという経済システムです。そうした合理的なルールがいつからか変質してしまい、マネーゲームや過剰な株主資本主義(株主至上主義)として貧富の格差を拡大させてきたことの功罪が顕著となっています。世界中で資本主義が破綻しつつあることの背景に何があるのか、映画がもっと辛辣に表現してくれることを期待します。
ただ、こんな作品を面白がっている自分もマネーゲームに加担していると言えなくもないので、せめてGameStopの従業員やその家族が路頭に迷う危険性があったことも想像してみたいです。