2025年2本目
流れる血は皆赤い
アメリカ南部の人種差別問題に切り込んだ社会派サスペンス
1964年、ミシシッピー州の小さな町で3人の公民権運動家が消息を絶った。FBIは捜査官のウォードとアンダーソンを派遣するが、彼らを待っていたのは敵意に満ちた住民だった。度重なる捜査妨害に遭いながらも、2人は事件の真相に迫るのだが…。
ウォードを『プラトーン』のウィレム・デフォー、アンダーソンを『フレンチ・コネクション』のジーン・ハックマンが演じるほか、『ファーゴ』のフランシス・マクドーマンド、『カッコーの巣の上で』のブラッド・ドゥーリフ、『フルメタル・ジャケット』のR・リー・アーメイ、『フルメタル・ジャケット』のスティーヴン・トボロウスキー、『JFK』のマイケル・ルーカー、『海の上のピアニスト』のプルイット・テイラー・ヴィンスらが共演した。
本作は、アラン・パーカー監督による社会派サスペンス映画で、1964年のアメリカ南部で実際に起きた公民権運動家3人の失踪事件を元に製作されている。公民権運動と人種差別という重いテーマを扱いながらも、緻密な脚本、卓越した演出、そして優れた俳優陣の演技によってエンターテインメント性と社会的メッセージを両立させた傑作だ。
本作は、公民権運動が盛り上がりを見せていた1964年、ミシシッピ州フィラデルフィアを舞台に、KKK(クー・クラックス・クラン)の暴力と人種差別の根深さを描いている。行方不明となった3人の公民権運動家を捜索するため、FBIの捜査官・アンダーソンとウォードの対照的なコンビが現地に派遣される。田舎町を包む閉鎖的で差別的な空気、暴力的なKKKと地元警察の癒着、そして沈黙する住民たち。物語は、2人の捜査官が対立しながらも少しずつ真相に迫り、やがて町に潜む憎悪と恐怖を暴いていく展開。南部出身で人間味のあるアンダーソンと、理想主義的なウォードの対比が印象的で、正反対の手法を使う2人が、それぞれのやり方で真実に迫る様子は大きな見どころとなっている。
本作が描く人種差別は驚くほど露骨で凄惨。黒人の家を焼き払い、リンチを行い、暴力と恐怖で支配するKKKの姿に戦慄せざるを得ない。地元住民が「黒人を排除すべきだ」、「殺されて当然だ」と公然と語るシーンは、暴力描写以上に人種差別の恐ろしさを感じさせる。また、捜査の進展が困難を極める理由として、地域全体に広がる恐怖と沈黙の連鎖がある。証言をすればKKKの報復に遭うため、黒人だけでなく白人も声を上げられないという構造的な問題が浮き彫りになる。
ジーン・ハックマンとウィレム・デフォーの名演技も必見。ジーン・ハックマン演じるアンダーソンは、南部出身のたたき上げ捜査官らしく、地元の文化や人々の心情を理解し、柔軟に立ち回る。一方、ウィレム・デフォー演じるウォードは、北部のエリートらしい正義感に満ちた理想主義者。2人の対立と協力が物語に奥行きを与え、観る者を引き込む大きな要素となっている。さらに、のちのオスカー女優・フランシス・マクドーマンドが演じるペル保安官の妻は、物語に人間的な深みを加える。黒人差別を嘆く彼女の言葉は、人種差別が社会全体に浸透していることを示しつつ、彼女のように南部地域にも社会を変えようとした人物がいたという微かな希望を抱かせる。