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陪審員2番のnetfilmsのレビュー・感想・評価

陪審員2番(2024年製作の映画)
4.2
 クリント・イーストウッドの一説によれば引退作と言われる今作がシネコンはおろか、スクリーンで一度もかかることがない。この衝撃的事実は2024年を象徴する事件であり、アメリカ映画の終焉を本気で予感させる。夏頃には一度はかかると言われたジョージ・クルーニーとブラッド・ピットの共演作も公開見送りになったが、イーストウッドもブラピも無理なら、もはやシネコンでいったい誰の映画なら公開になるのか?90年代以降のイーストウッドが俳優で出る出ない問題は確かにあるだろう。『運び屋』でよたよたする足取りで車に乗り込むスターの姿は確かに寂しさも感じさせたが、彼の死に場所がスクリーンならば、我々ファンに固唾を呑んで見守る場所だけはせめて確保して欲しい。イーストウッド率いるマルパソ・プロの作品はワーナーブラザーズ配給が常だが、これはイーストウッドが『ダーティハリー』や『ダーティファイター』によってワーナーブラザーズに巨万の富を与えた為の特別待遇である。イーストウッドの監督作のほとんどが減価償却で、半永久的にワーナーブラザーズとイーストウッドとは新作を製作する権利を有しているという。例外的に『チェンジリング』はユニバーサル映画配給である。

 そのようなアメリカ本国のマルパソ=ワーナーの蜜月関係を踏みにじってまでも、ワーナーブラザーズジャパンが今作を劇場でかけないと判断した事実は何よりも重い。本国では競合するNetflixやAmazon Primeに落とさず、USEN系列のU-NEXTを選んだ時点でワーナーの意地も見えるが、今週公開された映画の体たらくなラインナップを見ても、今作は数年前の世界線ならば、十分にお正月映画の大作としての地位は狙えるに違いない。それゆえに配信Onlyの判断がつくづく残念でならない。かつてアルコール依存症だったジャスティン・ケンプ(ニコラス・ホルト)は深刻な依存を克服したが、地元ジョージアの事件の陪審員に選ばれた。警察が提示した情報はケンダルは地元のバーにて恋人のジェームズ・サイスと喧嘩し、その後橋の下で遺体で発見されたという傷ましい事件である。カーター事件を起訴する地方検事補フェイス・キルブルー(トニ・コレット)は当初、サイスの犯行を信じて疑わない。ひたすら否認する彼の状況証拠を集めようとひたすら奔走するが、これといった確証を得ることが出来ない。しまいにはハロルド・チコウスキー(J・K・シモンズ)が別の真犯人がいるのではと動き始め、フェイスの確信は揺らぎ始める。

 イーストウッドほど私刑や法の下の自由・平等にこだわった監督はいない。『トゥルー・クライム』ばりの冒頭の交通事故はやがて主人公を深刻なパラノイアへと追いやって行く。『十二人の怒れる男』のような折り目正しい法廷劇は、イーストウッドのフィルモグラフィを見れば決して上位に来るものではない。だがラストの余韻は『ミスティック・リバー』とよく似た雰囲気を醸す。あらためて今作をスクリーンで観られなかった事実が残念でならない。
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