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陪審員2番のmaverickのレビュー・感想・評価

陪審員2番(2024年製作の映画)
4.5
2024年のアメリカ映画。巨匠クリント・イーストウッド監督の最新作。


本作は94歳となるクリント・イーストウッド監督の、最後の作品ではないかと言われている。にも関わらず配給のワーナーからは難色を示され、本国アメリカでも小規模での限定上映。日本では劇場公開すらされず、U-NEXTでの独占配信となった。アカデミー監督賞を二度受賞し、世界中の映画ファンから愛される巨匠の最新作とは思えない異例の扱い。これには自分もショックだった。してその出来栄えはどうなのかと心配ではあったが、文句なしに面白い。劇場ではスルーされたものの、批評家からは好評で、全米映画批評家協会によって2024年のトップ10映画の一つに選ばれている。作品の質が悪いのではなく、単に劇場での興行収入が見込めないと配給会社から判断されただけのこと。イーストウッドらしい渾身の力作で安堵した。

イーストウッドは今作では出演せずに監督に専念する。主演を務めるのは『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のニコラス・ホルト。『ヘレディタリー/継承』のトニ・コレット、『セッション』のJ・K・シモンズ、『ヴァンパイア・アカデミー』のゾーイ・ドゥイッチなど、魅力あるキャスティングで形成された人間ドラマとなっている。善悪の狭間で揺れ動く人間の心理を巧みに映し出した作品性。最初から最後まで完全に見入った。

殺人事件の陪審員となった主人公を中心に据えた物語。犯人となった容疑者は有罪か無罪かを争う骨太の法廷劇であり、それにまつわるドラマが展開する。主人公は無作為に選ばれた陪審員のはずであった。だがそこで彼自身も知らなかった事実が明らかとなる。人は罪悪感を無視できるのか否か、そこに焦点を当てた話である。主人公以外の陪審員も当初は多くが他人事であった。だが徐々にそうではなくなってゆく。そしてそれは裁判に関わる他の者たちにも広がってゆく。人の心には善良な部分が必ずある。それを完全に無視しようとするのは難しいことなのだと本作は伝えている。世の中が完全に悪で支配されず、必ず正義の心で世界が正されるのはそういうことなのだと思う。胸に染み入る話である。

今作にワーナーが難色を示したのは、前作『クライ・マッチョ』の影響があるのではないかと思っている。イーストウッドの作品としては力強さも魅力も乏しいと感じ、さすがにもう無理なのかもと思わせた。そうした前作の実情もあるし、本作に関してはイメージとしても地味ではある。これまでの監督作と比べればエンタメ性も薄くて観客数が見込めないと判断されても分かる気がする。ただ内容としては文句なし。売り込み次第で劇場大ヒットにも繋がったのではなかろうか。日本では劇場公開すらされず、U-NEXTのみでの配信となったのも寂しい。こんなに良い作品なのだから、やはり多くの人に鑑賞してもらいたいと思う。

キーファー・サザーランドが本作に出演しているが、小さな役でも良いから出演したいと彼から懇願したらしい。そうまでさせるなんて、やはりイーストウッドは偉大である。


これがクリント・イーストウッドが監督する最後の作品になるのだろうか。未だ才能は衰えていないということを示してくれただけに期待もしてしまう。本作は素晴らしい作品であった。これが最後だろうとなかろうと、映画ファンから末永く愛される作品となるであろう。
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