鹿苑寺と慈照寺

喪うの鹿苑寺と慈照寺のレビュー・感想・評価

喪う(2023年製作の映画)
4.5
【本当に死を理解できるのは欠落を味わった時のみ。それ以外は幻想だ】

父親の最期を看取るため疎遠だった三姉妹が実家に集う。そこで明らかになる三姉妹の不仲や再生を描く本作。

このタイミングで観てしまうと、どうしても感想やレビューに個人的な感情が乗っかってしまうと思う。

今の時代だったらまだまだ若かったし、もっと長く生きられるはずだったのに僕の父親は今年の夏に亡くなった。食道がんだった。本作に登場する三姉妹の父親と状態があまりにも似通っていて、僕が父親に会いに行ったときはもういつ亡くなるか分からない状態だった。劇中で登場する「覚悟はしておいてください」「あと2〜3日」という台詞が、数ヶ月前に僕と僕の母親に告げられた言葉とどうしても重なってしまう。

本作で登場する三姉妹は3人とも生き方も出自も異なり、疎遠だったことも相まって誤解と衝突を繰り返す。お互いの誤解を解き、出自や生き方を開示する過程で徐々にお互いの壁が取り払われていく様がとても良かった。

本作で最も印象的な台詞は「本当に死を理解できるのは欠落を味わった時のみ。それ以外は幻想だ」だ。

僕自身もどこかで父親は元気だから長生きするだろうという勝手な思い込みがあった。そこに胡座をかいていたし、それが後悔にもなっている。父親が亡くなった直後、葬式のときでさえも実感が沸かなかったけれど、ふと1人になったとき「ああ、もういないんだ」と寂しくなるし、ゴジラの新作が公開されてももうそれを教えてあげられないんだと思うと、とても悲しい。僕にとって100%良い父親ではなかったし、絶対にこうはならないと誓った人でもあるけれど、もういないという喪失感に襲われることがある。

死ぬときは本人にも後悔が残るし、それは残された人たちもそうだ。印象的だったのは、三姉妹の長女だ。近くに住んでいながらもずっと父親のところには来ていなかった。近くにいるからこそというのも分かるし、遠くに住んでいたら余計に疎遠になるというのも分かる。それが険悪の火種にもなり得る。家族関係のしんどさを描いた作品でもあるし、再生できるという希望を描いた作品でもあり、傑作だと思う。


以下は個人的なメモ
-----
「過去の問題は今は忘れて終わったら解決すればいい」

「たった5分で険悪になった」

「気の持ちようで病気は治らない」

「だって帰った瞬間に死にそうな気がするでしょ」

「お父様と話したいことがあるなら、今が最後のチャンスだ」

こんなときに男を連れ込んでるのやばいやろ。

「ずっとパパを世話してきたのは君だ」

「あの女らはわかったふりをして全部ウソだ」

「本当に死を理解できるのは欠落を味わった時のみ。それ以外は幻想だ」

「甘やかされたクソ女でも成長したクソ女になる。冗談だよ」

「誰もが後悔を抱えたまはま死ぬ」
-----