【人新世】
この美しくも雄大、優しく、豊かでも厳しいノルウェーのフィヨルドの自然を前にして、言葉の持つ役割はちっぽけに思えたりする。
自然とは美しいもの、恵みであり、尊いもの。
しかし、自然とは厳しく、時には御し難いもの。
そんなことは分かっているつもりなのだが、この「ソング・オブ・アース」を、それらの奏でる音とともに観て更に深く心に刻むような作品だ。
少し横道にそれるが、海外の国際的な映画賞を獲得し、24年の春に日本で公開になったある映画作品の感想に、自然と人の営みのバランスが大事みたいな書き込みとてもが多かったように思う。
ただ、あのラストに至るまでを観ていると、僕たちがバランスと勝手に思っているものは非常に曖昧で不安定なものだと言っているようにしか思えない。そんなところで生きているのだと。
この「ソング・オブ・アース」は、ノルウェーのフィヨルドの自然とともに生きる老夫婦にフォーカスを当てた作品だ。
そして、印象的なのは全編で映画が捉えた四季で移ろう音だ。
氷河がきしみ割れる音、
氷河が岩盤の大地を削る音、
氷河が崩落する轟音、
溶けた水が滝となって落ちる爆音、
川となって流れる静かに包み込むような音、
風の音、
虫の羽音、
馬の息遣い、
また、音の聞こえないような世界、
無音もまた音だ。
辿った二人の人生を振り返り、更に、経験した自然災害による悲しい出来事を散りばめ、曖昧ななかでも自然とどこかで折り合いを付けながらやってきたこと。
大地を踏みしめて歩く足音や歌声も含めて人間の奏でる音も「ソング・オブ・アース」なのだと云うメッセージも込められた作品だと思う。
ちょうど、NHKEテレ「サイエンスZERO」で人新世を特集していた。
映画の中で氷河が今は小さくなる一方だと語られるが、僕たちは世界としてどこかで自然と折り合うところを見つけなくてはならない時に来ているはずだ。