あたまの中がいちばん広い。
ファイト・ヘルマー監督、脚本、ニニ・ソセリア、マチルド・イルマン共演によるドイツ、ジョージア製作のファンタジックコメディ。
山の谷間をつなぐゴンドラの乗務員二人の姿を描く。
主人公となるゴンドラの乗務員ニノをソセリア、新入り乗務員のイヴァをイルマンが演じているほか、ゴンドラの駅長をズカ・パプアシヴィリが演じており、主な登場人物はこの三人。
物語は、冒頭ゴンドラに黒い飾りが施され、何が荷物として載るかと思ったら、まさかの柩という驚きのスタートを見せるが、裏を返せば、日本ではゴンドラ(=ロープウェイ)の多くが観光目的で設置されているのに対し、ここでは地域の人々の足として使われていることを端的に示したシーンとなっており、奇抜ながら抜群のオープニングを見せてくれている。
そして、亡くなったのが、どうもゴンドラの乗務員らしく、以降、二つのゴンドラそれぞれに乗り込む新たに採用されたイヴァと、先輩乗務員のニノが、ゴンドラがすれ違うたびに距離を近づけていく様が中心となるのだが、本作品の特徴は何と言ってもセリフなしであること。
そのため、人間関係や設定の説明は一切なく、先ほど「どうも」と書いたように行間を、いや行すらないので映像から全てを頭の中で補完していくしかなく、それがまた適度に頭を覚醒してくれた次第。
ただ、あくまでもセリフなしであって、生活音もあれば劇伴も鳴り響くことから、決してサイレント映画のような静かな作品ではなく、字幕の出ない洋画はスクリーンに広さを感じると同時に、字幕をつける必要がないため、国毎で仕様を変えることなく上映できるのは素晴らしいところ。
肝心の物語は、セリフなしということもあり、シュール・コメディに近く、中盤以降は、かなり現実離れした内容となっているため、ファンタジーと割り切れるかどうかで評価が分かれると思われるもの。
また、このゴンドラ自体、ジョージア南部のフロという村に実在するものであり、後から調べたところ、フロ村と谷を挟んだタゴ村とを結ぶものらしく、全長約1700メートルあるようなのだが、その最大の特徴は、途中にロープを支える支柱のないワンスパン方式であること。
日本では、富山県と長野県を結ぶ立山黒部アルペンルートにある立山ロープウェイが最長のワンスパン方式のロープウェイであり、その距離は本作品のゴンドラ同様、約1700メートル。
ただ、ゴンドラの大きさが全く違うため、軽量で小さな本作品のゴンドラはかなり揺れそうであり、下手な遊園地のアトラクションよりも、遥かにスリリングであることは想像に難くない。
また、クルマ好きの視点からすると、駅長の愛車が車種は不明ながら、ソフトトップ構造の四輪駆動車であり、その走行音からマニュアルトランスミッション車であったのは見逃せないポイント。
セリフなしであるが故に、次は何が起こるのかのワクワク感が止まらず、ファンタジーっぽさも許せてしまう可愛い作風であり、ゴンドラの動きを模したエンドロールがオシャレであったとともに、その昔、アニメ『トムとジェリー』で、セリフを喋るバージョンと喋らないバージョンの二つがあり、喋らないバージョンのドタバタ喜劇を何故か思い出した一作。
オーケイ!