【僕たちの社会に欠けているもの】
とても感情を揺さぶられる作品だった。
この感情を言葉に言い表すのも、伝えることも実は難しい。
ただ、この映画「あんのこと」が出来るだけ多くの人に届くように祈りたくなる。
また、多くの人がきっとあんのことを抱きしめたくなるんじゃないのかとも思う。
そして、僕たちの社会のことを改めて考えて欲しい。
この映画「あんのこと」は、感情移入してあれこれ考えるような作品ではないと思う。
それは、これが僕たちの社会そのものなのだと示唆しているような気がするからだ。
たぶん多くは母親が毒親だと怒りを顕にするのかもしれない。
ただ、そんなことは簡単なことだし、あまり意味がないように思える。
(以下ネタバレ)
ジャーナリズムの正義によって暴かれ、そして崩れてしまう微妙なバランス。
刑事の善意と下心。
圧倒的に前者が勝っていたとしても、罪は罪だ。
コロナも追い討ちをかけるが、人間自身の抱える矛盾も含めて、僕たちの社会にはこれを止める手立てはない。
更に、ネットでは批判があがりがちな正義を止めてはいけないのだと僕は強く思う。
ただ、僕たちの現在の社会システムでは、こうした悪意と、善意と、下心と、正義が絡み合って生まれる”歪みのしわ寄せ”は、往々にして弱者のところに向かってしまうのだ。
立ち直ろうともがき苦しむあんのような弱者に向かうのだ。
僕たちはこれを決して忘れてはならない。
毒親なんていなくなるはずがない。
善意と下心を抱えた人間だって同様だ。
だからこそ、願わくは、”サルベージ”を社会システムとして維持する手立てはなかったのかと考えてしまう。
社会システムとして補完できるのはこれくらいじゃないのかと。
僕にはこんな程度しか思いつかない。
だからこそ、今年の邦画の中で一番多くの人に観て欲しいと、そして多くの人に考えて欲しいと思った作品だった。