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あんのことのKAKIPのレビュー・感想・評価

あんのこと(2023年製作の映画)
4.0
記録用
入江悠監督作品。

衝撃の現代社会が炙り出す実話!しかしそれだけで片付けられるか、、?
主人公の杏は母親から暴力を振られ売春を強要され家計を支える。
祖母が体が悪く家族の家事や祖父の面倒も見て生活している。
ある日覚醒剤の中毒になったところを取り調べを受け多々羅という刑事に出会い、、。

あらすじだけで重い内容ですが本当にレビュー書いていてたまたまだとは思いますが貧困をテーマにした作品がここ数年で本当に増えたことを実感します。
コロナという時代背景だけではなく若者の社会問題を考えうるだけ詰め込んだ様な作品で逆に考えるとそれはすべて密接に関係していて連鎖的に発生しているともかんがえられる。

そこで救いの手を差し伸べる大人として佐藤二郎演じる刑事とジャーナリストの稲垣吾郎が登場する。
二人は対照的で佐藤二郎は昔ながらの昭和の粗暴ながら熱く稲垣吾郎は寡黙ながらも内に秘めているものは熱い。
二人とも己の信念に基づいて社会の問題へ手を差し伸ばし打破しようとしている。

しかし佐藤二郎は女性関係で問題があり救うはずのセミナーを性加害の場として使用していた。そしてジャーナリストとしてそれを告発する稲垣吾郎。しかし結果的に杏を孤独に追い込みラストの展開にまで追い込む大きな原因になったとも言える。

それでは佐藤二郎はどうしようもないクズ人間だったのかというと彼の薬物中毒者を更生させたい行動、気持ちに偽りはなかった。
ただ人間的には弱い部分がありそれも含め人間であり安易な二元論で語れることではないだろう。

そして稲垣吾郎だが杏にも危害が及ぶことも考えた上の告発だったと思うが彼が起こした問題提起により救われる人間もいるだろうが結果的に杏のようなセミナーが解散してしまうことで孤立してしまう中毒者達へのサポートまでも万全かどうかという疑問だ。
結果的に杏のラストがその人達の中での最悪なルートであったとは思うが。

結局のところこの二人の大人は自分が助けたいと思った人間は救えたかもしれないが新たな被害者を生み出してしまっているという点では同じだと言える。
安易に二人の大人が貧困の若者を救い出すというところに落とさず救世主側も人間である故の問題点を炙り出したことがこの作品の面白いところの一つだ。

そして杏だが観客側から見るとこの状況を解決しようとすることはいくらでもできるしかし家庭でのヤングケアラー等の洗脳に近い虐待などにより教育や知恵も与えられない状況であることから自分で考え知恵を絞ることさえ出来ないのがもどかしく辛い。
火垂るの墓の清太たちを見ている時の気持ちに近いものがある。
そして同じ河合優実主演のナミビアの砂漠などと比べると介護職に就いたりと人に何か尽くすことにより喜びを感じている描写もある。
そして第三幕目に登場する早見あかり演じる母親に赤ん坊を無理やり預けられるのだがやはり他者に尽くすことにより人との触れ合い喜びを感じて生きる喜びや意味を見出している様に思う。

この部分がフィクションなのだが事実ではもたらされなかった赤ん坊から与えられる幸福とその後の母親との対峙は密室の中だが緊張感がもたらされる演出となっていて良いが
ラストの展開への都合の良い演出上の装置となり過ぎてしまっているのようなきらいもある。
もっとエグく踏み込めた様にも感じられるがエンターテイメントとして幅広く見てもらうためにはこのあたりのバランス調整もちょうど良かった様に感じる。

一種の胸糞感動ポルノとして消費される可能性もある作品であったが刑事とジャーナリストの存在が良いストッパーになり物事を単純化させない作りには好感が持てました。

入江悠監督作品はサイタマノラッパーが当時話題になりそれからだいたいは鑑賞していたがまた一つ皮が剥けた気がしてこれからが楽しみです。
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