幽斎

ファミリー・ディナーの幽斎のレビュー・感想・評価

ファミリー・ディナー(2022年製作の映画)
3.8
体型コンプレックスを持つ少女が栄養士の叔母と過ごすが、不穏を増して逝く姿をイースターを織り交ぜて描くダイエットスリラー。アップリンク京都で鑑賞。

Peter Hengl監督?誰やソレ、全く無名のオーストリア人のインディーズ作品が、北米最大のトライベッカ映画祭でサプライズ上映、スリラー界隈で話題に。監督はオーストリアの名門ウィーンフィルムアカデミー出身。世界一の変態監督Michael Hanekeが名誉講師を務める。製作資金もオーストリア映画協会とオーストリア放送協会がサポート。

肥満体形を何とかしたい10代の少女、料理研究家兼栄養士の叔母、コレだけのプロットでスリラー映画が創れる監督は、Hanekeと同じく変態気質。長編映画デビューNina Katlein演じるシミーは、叔母のクラウディアの家へ泊まりに行くが、別れた夫の姪で親戚でも何でも無く赤の他人。家庭環境も最悪で毎日ピリピリした生活。険悪な家に行く強い意思が有るならダイエット出来ソウだが問題はドウ痩せるか、では無かった。

京都もchocoZAPが増えたけど、私は太らない体質で幾らラーメン食べても細マッチョ。栄養士の叔母のプランは「断食」ってオイ!、劇場でズッコケそうに為った(笑)。京都の寺院で修行体験すれば毎日が精進料理なので確実に痩せる、今流行のワーケーションとか女性にもお薦めのプランが・・・何の話でしたっけ?、あぁ食事制限でしたね。

極端な食事制限は逆効果。一時期RIZAPが持て囃されましたが、筋トレより食事制限、ソリァ食べなきゃ肥りませんよ。医療的には消費カロリーが摂取カロリーを上回れば体重は減るが、代謝の低下や筋肉量の減少に繋がり、結果的に肥り易い体質に為る。世間ではソレをリバウンドと言う。日本人は痩せる事を美徳と考えるが、英米では健康に問題が無ければ気にしないのが一般的。私もモデル体型の人はあんまり(笑)。

「Fasting」英米では一定期間内臓を休める行為。摂取する酵素ドリンクからビタミンとミネラル、補酵素を補給する事で、代謝酵素がしっかり働ける体内環境へ。代謝が活性化し脂肪燃焼の効率が上がり、結果として痩せる。本作は不穏な雰囲気と殺伐とした違和感が付き纏い、カンの悪い人でも何か企みが密かに進行してる事に気付くだろう。

【ネタバレ】物語の核心に触れる考察へ移ります。自己責任でご覧下さい【閲覧注意!】

私はEXクリスチャンですが、日本人はクリスマス、バレンタインデー、ハロウィンと異国のイベントを茶化して楽しんでるが(笑)、流石にイースターは第4のイベントには為らんでしょう。イオンが仕掛けるかもしれんが言い加減バチが当たりますよ。「Easter」磔刑で死んだイエスキリストが3日後に復活した事を祝うキリスト教の最も重要な祭祀。春分の日の後の最初の満月の次の日曜日と言う移動祝日。イースターエッグは復活祭の卵。見た目に動かない卵から新しい生命が生まれる、死と復活を象徴する食べ物。卵の染め方には各国のお国柄が忍ばれる。問題はイースターの前には断食が有る。

イースター当日に解禁、卵や肉料理を食べる。シミーの断食も伏線、解禁に使われる肉も伏線。イースターのラム肉はキリストの象徴、フィリップに置き換えたのがクラウディア。神の子羊=息子に置き換えたが、新たな命の復活も意味してる。一連の神を冒涜する行為はシミーの手で成敗される。クラウディアは火炙りの刑に処されるが、最後の審判に彼女が参加出来ない意味は、黒魔術の行為がキリストの大罪だから。

私は劇場で観た時、監督はレビュー済「ミッドサマー」インスパイアと確信。ミッドサマーの元ネタは「ウィッカーマン」巨大な人型の檻に捧げる人間を閉じ込め焼き殺す奇祭。フォークホラーの元祖で、プロットは本作でも活かされる。初めての儀式には見えないが、ホラーとして見ると怖さは全く感じない。オーストリア映画らしく薄気味悪さより、気持ち悪さの方が勝る。私の師匠Alfred Hitchcock監督のスリラーの緩急が本作には不足してる。同時にアメリカのホラー映画の勉強不足も感じた。

演出が稚拙に感じるのは初めから不穏の空気感を出し過ぎ。ミッドサマーが秀逸なのは晴れた青空の下で皆が笑って禍々しい、レトリックのインヴィテーションに有る。ホラー=夜を覆するなら、イントロダクションは陽気全開の方が落差も激しい。ミステリーの世界でFluctuationと言うが、観客のイマジネーションに頼る演出、危機的シチュエーションから脱出するスリラーとして見ても、オチの意外性が全く無い。

キリスト教の知識が無いと「何じゃコリャ?」、カルト教団のミッドサマー、ウィッカーマンの方が日本人には分かり易い。スリラーの難しいのは物語のバックグラウンドを、どの程度観客にネタバラシするか。本作は家族の背景は説明せず、一方でカニバリズムと黒魔術は暴露、要は用心深さが足りない。クラウディアの目的は来年のイースターにシミーを食べる事。意外と俊敏にシミ―が動けるので、シュテファンと家も焼き払い、シミ―は車で颯爽と家に帰る。アメリカ映画なら、ラストはこんな風に描くと思う。

オーストリア映画としては頑張ったが、レビューで大好評「ヴィーガンズハム」神戸ヴィーガンの方が一枚上手。食のスリラーの元祖「デリカテッセン」見習い、ラストの物語の畳み方が鮮麗されれば、Hanekeの弟子として認めて良いかも。

イースターに出すとダメな肉(笑)、呪縛と捕食のアンビバレンツを貴方も召し上がれ。
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