2024.08.06
予告を見て気になった作品。
文学を愛する13歳の少女・ヴァネッサは、小児性愛者であることを隠さずに執筆活動をしている作家・ガブリエルに出会い、すぐにその寵愛を受けることとなる。
親や世間の目に糾弾されながらも、自身の愛情を信じるヴァネッサは、ガブリエルとの関係にどんどん深く嵌っていく。
果たしてそれは、醜い性愛か、美しい純愛かー。
フランス映画だなーって感じの、深く情緒的な心情描写は、その感情が純粋であればあるほどこちらの中にスーッと入ってきたりジーンと染み込んできたりしますが、これほど醜い感情となるとこんなにも痛々しく抉りにかかってくるものとは。
フランス映画、やはり恐るべし。
しかもなにが恐ろしく小憎らしいって、序盤の、ヴァネッサとガブリエルの関係性があまり深掘りされていないうちから性的描写を生々しく描かれると初っ端から不快感MAXになるところを、光彩の加減や行為後のヴァネッサの表情、清々しいようなBGMでもってどこか美しさのあるものに仕上げてきていたところです。
これでは純愛を信じたくなってしまうではないですか!
そしてヴァネッサとガブリエルの関係が作中で深掘りされればされるほど、性的描写はより直接的になっていくけど、それまでに描かれたヴァネッサの苦悩や、ガブリエルに対する愛情があるから、光彩の加減もBGMも無いのに、不快感が感じられないというのもまた恐ろしい。
今作を観ると小児性愛自体に対する自分の価値観が揺らぎかねないというのもまた恐ろしい。
今作を観るまでは、偏見ですけどちょっと気持ち悪いな、犯罪者予備軍なのかなぐらいにしか思っていませんでした。
しかし少年少女側に『同意』の意思がある場合はどうなのか、その場合は他の恋人同士と同じような愛情があるのではないか。
同意なく、立場を利用して拒否できない状況で、というなら性被害だと断じることができるでしょう。
しかし今作のヴァネッサのように本当に心の底から愛していると言われると周囲はどうすればいいのか。
愛情の不在証明をするしかないのではないか。
小児性愛者側は今作のガブリエルのように、ヴァネッサが成長したらまた次の少女を見つけて愛することになるのでしょうが、作中でも描かれたようにヴァネッサからしたら愛していた人による裏切りに他ならず、心に深い傷を負うことになる、恐ろしい危険を孕んだ性愛なんだと思い知らされました。
また、ヴァネッサ側にしてみても、未成年で経験が無いもしくは少ない年頃に、歳の離れた相手と行為を重ねるということが、その子の将来にどんな影響があるのかについても考えてしまいます。
初めての相手を忘れられず、何年経っても同じ歳の人を愛すのか、同じくらい歳が離れていることを求めるのか、それとも自分も小児性愛者となるのか。
終盤のヴァネッサはどうやら結婚して子供も育てているようでしたが、そうなっていたかもしれないと思うともう……。
未成年に対する性行為がどうしていけないかって、責任能力やアイデンティティの不足も理由にあると思いますが、やはり将来の恋愛感情に決して小さくない影響を与えてしまうということもあるんだと、今作を観て初めて感じました。
もう今作伝記ドラマのはずなのに恐ろしい点しか見当たらない!
2022年公開の『流浪の月』も、誘拐犯と被害女児という形で、世間が許さない中でも深く関わり合っていく歳の離れた男女を描いていましたが、そこには女児側の家族の事情が土台にありました。
しかし今作にはそれすらもなく、ヴァネッサは純粋にガブリエルの文学と彼自身を愛してしまい、それが原因で逆に母とも不和が生じてしまう。
そして側から見ればそんな壮絶な経験をしているのだから、ガブリエルだけでなくヴァネッサにも、経験したことを純文学へと昇華させてほしかったけど、史実の通り、ヴァネッサの作家人生はガブリエルを本という「檻」の中に閉じ込める方向へと向かってしまいました。
なんだかんだそれが今作の中で一番ビターな部分のようにも感じます。
個人的海外作品あるある、登場人物の顔がすぐには覚えられないという致命的な弱点を負っている身ですが、今作でガブリエルを演じたジャン=ポール・ルーヴの存在感よ。
序盤にも関わらず群衆の中にいても異彩な雰囲気を放っており、ヴァネッサと同じように目を離すことができない、必ず視界に入ってくる、そんな不気味で不思議で強烈な魅力を放っていました。