◎Black &Asian優勢USAのWellmadeな黒沢清
ビーキーパーって何やねん、と思ってシアター入りしたが、始まってすぐに、
「そっか、蜂退治する人のことかいな?
あれ? でも、それだとkeeper にならんし、‥‥
あぁ、蜜蜂飼って蜂蜜とる業者のことかいな」
と答えが出たところで、字幕に「養蜂家」と出て、忘れかけていた熟語を思い出させてくれた。
(まぁ、単純に英語力の問題なんで、ここまではネタバレぢゃないと堪忍してくださいませ。)
【以下ネタバレ注意⚠️】
要は、何故だか本当の養蜂家ではあるが、実は無双無敵のスーパーストロングな中年男アダム・クレイ(ジェイソン・ステイサム)が主人公。
納屋を養蜂の作業場として貸してくれている優しい大家さんのパーカー婆様が、悪どいネット詐欺の被害で自分が運営している慈善団体の資金も含めて、全財産を騙し盗られて自殺したことに怒り、その仇をとる、胸がすくような征伐譚。
枠組だけ見たら、転売ヤーを主人公にした黒沢清監督の『Cloud』と物語の構造自体はよく似ている。
こちらの方は、お話の全体が、もっと分かりやすく交通整理されていて、謎も段々と順を追って明らかになる仕掛け。
至ってウェルメイドに出来ているので、ウケは良いに違いない。
ただ、ビーキーパーが政府直轄の匿名=特命工作員らしきことは明かされるけれど、実際の彼らの任務は全然分からないし、その実態についても要領を得ない。
転売ヤーとか、高齢者相手のネット詐欺とかを題材として取り上げて、その被害者が復讐を図ろうとする構図は『Cloud』と同じで、その起点から、自由に物語を展開していくが、細部の整合性にはあまりこだわっていない点でも共通している。
『Cloud』のFilmarksレビューを追っていると、はじめ劇場公開されていた段階では、褒めるにしろ落胆するにせよ、コアな黒沢清ファンによる「キヨシ・クロサワの映画作法」を踏まえた感想ばかりが並んでいたのが、配信が始まって以降は、展開がデタラメとか、後半の銃撃が分からんとか、初見さんの観たままな感想が大多数を占めるように変わったのが面白かった。
正直、本作は、「金と脚本労作をハリウッド式にウェルメイドにした」だけのクロサワ映画のように思えたのだが、『Cloud』を配信で視聴して「クズ」と決めつけたレビュアーの方々の感想をぜひ訊いてみたい。
まぁ、久しぶりにハリウッドらしい映画を観たなぁ、という感じもしたが、登場人物、特に被害者サイドと各種の集団の成員たちが圧倒的に黒人と日系含む東アジア系で占められていたのが、「今どき」のハリウッドらしさでもあるのだろう。
女性大統領の大統領選不正が最終的に暴かれた「悪」だったあたり、加えて、犯罪者サイドは白人ばかりだったあたりも含めて、「もう一つの『Civil War』」の要素もあるような気もした。