子供のときに住んでいたマンションの向かいに20階建ての高層マンションが建設され、そのマンションがこっちに倒れてきたらどうしようと、僕は子供のときずっと不安だった。あるいは床が抜け落ちらどうしようとも思っていた。大人になった今でも工事現場のそばを歩くときに鉄骨が落ちてきたらどうしようと思ってしまう。こういう死についての不安は誰しもあると思う。
本作の主人公フランも自分に死について頻繁に考えている。ただ、フランは死についての不安ではなく、家と職場の往復生活の中で友達も恋人もおらず、唯一の楽しみとして死についての空想にふけっている。そんなフランの職場に定年退職した同僚の代替要員としてロバートが入社し、ささやかな交流からフランの日常が変化していくことで物語が動き出す。
めちゃくちゃ好きな作品だった。
何か大きな事件が起きるわけではない。でも、主人公の日常には変化が起きる。人生にも影響を及ぼす。93分という短い尺の中でフランの変化を感じ取れる作りになっているのがとても良い。
同僚との世間話、自己開示、気の利いた差し入れなど物語の開始から最後ではフランの人物像はほんの少し前進する。この「ほんの少し」という塩梅がとても絶妙。大人になったら性格の大部分は変わらない。でも、自分からほんの少し歩み寄ることでちょっとは変わることができる。それを端的に示したとても良い作品。
本作は死というのがテーマになっている。ラストで定年退職した同僚の言葉が本作のテーマを端的に示していて、かつとても染みる。
ロバートの「色々得意だね。周りが知らないだけだ」 という言葉もとても素敵だった。
以下は個人的なメモ
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ずっとどうでもいい会話してる。
職場内の狭いコミュニティの気まずさ
何の会社?
気まずい沈黙が好きって珍しいな。
けっこうな年齢なのに仕事したことないのか。
映画の感想を聞かれて「いいところがなかった」ってはっきり言えるのすごい。
フランはどうしてロバートとコミュニケーションを取ろうと思ったんだろう。
ロバート、どうでもいいことをめっちゃ喋るやん。
働いたことないのに結婚してたの?
「色々得意だね。周りが知らないだけだ」
「何でもないことが何より大切だった」
「毎日朝起きてこの世界と向き合うの。ここに座って受け入れる。現実をね。これが私の現実。想像してた現実がどんなにすばらしくても頭の中にある空想の世界、それは現実じゃない。これが私の人生。難しいと思わない?ちゃんと生きることって」
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