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リトル・エッラのTのレビュー・感想・評価

リトル・エッラ(2022年製作の映画)
3.9
小さな女の子の小さなお話は、小憎らしくてうまくいかないことの連続にイライラしてしまうのだけど、こんな些細なことがやがて他人を傷つけ、取り返しのつかないことに発展してしまう。

ああっ!どうして世界は思い通りにいかないのかしら!

他者と関わり暮らすことのままならなさは、相互理解と思いやりでモアハッピーになる。なんて「大人には当たり前のこと」を傷つきながら学び、成長するエッラに胸が苦しくなる。

「大人には当たり前」、本当にそうなんだろうか。エッラを取り巻く大人たちはそのように描かれているけれど、僕らもそうだろうか。同性愛やトランスジェンダーの他者を、移民を、ベビーカーを引く人を、自分の思い通りにコントロールしたい大人たちはいないだろうか。

エッラは我々の中にもいる。そこに気がつくと、描かれてることの射程がとても長く見えてくる映画です。

【追記】
エッラとトミーおじさんが歌う『YOU AND ME SONG』(1994)はThe Cardigansと並ぶスウェディッシュポップの旗手The Wannadiesで、渋谷系おじさんやオリーブおばさんの胸にど真ん中ストライク!

90sリバイバルもあるけれど大人向けに選曲された部分ももちろんあるでしょうね。こういうところからも絵本原作ながら大人をしっかり射程に入れているなあと感じます。

【追記2】
音痴だとわかっていてスティーブにマイクを持たせるくだりが白眉。

音痴はスティーブの「欠点」。少なくともエッラはそう思っています。その「欠点」を「SING SONG SUSHI」(すごい店名!)のお客さんたちは手拍子と声援で一気にポジティブに変えてしまいます!

これこそがこの映画のポイント。周囲が他人の「欠点」を補ってもっといい世界に変えていく。これをエッラのイタズラ大失敗と重ねています。「欠点」という言い方は良くないな、「マイノリティ性」とでも言い換えましょう。「マイノリティ性」を吹聴して炎上させてやろうと画策したことを、周囲がポジティブに変換。憎悪による攻撃を失敗させたんですね。

エッラの周りにわざわざマイノリティをたくさん配置したのは、このポジティブを描きたかったからですよね。

【追記3】
また長々と書いてしまった。最後!

「エッラのイタズラが過ぎてムカつく」というレビュー、その感想で正しいと思います。

スティーブはトミーの恋人ですが、それ以前に言葉が通じない外国人で同性愛者というマイノリティなんですね。自分の理解できない言葉で話し合っているのがムカつくというのは、外国人差別がはじまる典型例です。スティーブは攻撃にも屈せず、ニコニコとエッラを許していきます。仲良くしたいから。にもかかわらず、エッラは彼を「排除」するためにイタズラを加速させていきます。

これはヘイトスピーチがヘイトクライムへ発展する構造そのものです。

ヘイトクライムへの発展として見せるために髪を剃り落とすというイタズラを超えた過剰な攻撃として描いたし、トミーに今までにないほどに怒らせたのです。

誤解を恐れずに言えば、エッラは排外主義者のメタファーなのです。ムカついて当然なんですね。

【追記4】
最後!最後だから!

三つ子のカーチェイス、一刻一秒を争うのにベビーカー引いてる人にはちゃんと止まってあげています。ギャグまじりですが、こういう描写にも他者の「マイノリティ性」を周囲が補ってポジティブに変換するというテーマを入れ込んでいるのがわかりますね。

【追記5】
本当に最後にします…

「ジョジョラビットの2人みたい」というレビュー!まさに!ジョジョはナチで差別主義者だけれど、最後にはイマジナリーフレンドのアイツを…という話でしたね!
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