幽斎

シビル・ウォー アメリカ最後の日の幽斎のレビュー・感想・評価

4.6
レビュー済「MEN 同じ顔の男たち」Alex Garland監督が、分断が進み内戦が勃発した架空のアメリカを舞台に描く戦慄のミリタリースリラー。Tジョイ京都で鑑賞、AmazonPrimeで早くも絶賛0円配信中!、何でやねん(笑)。

他の制作会社が創った作品を配給と言う名で自身の映画と宣伝する「A24」が、久し振りに本気を出す。レビュー済「ボーはおそれている」上回るA24史上最高額5000万$を投入。北米ランキング2週連続1位、アカデミー作品賞でレビュー済「エブエブ」次ぐ興行成績。インディペンデントの雄の威信を掛けて珍しいミリタリーなスリラー。

「A24」の作品には或る共通点が有る、ソレが「分断」。多くの家族単位の分断を描いたが、本作はズバリ、アメリカ国民全体。ロンドン出身のインテリ監督も、アメリカの趨勢は目に余るのだろう。2024年の大統領選挙に公開が間に合うスケジューリング。

アメリカで内戦と言えば「南北戦争」西部劇のアレじゃない。時は1861年、南部11州が合衆国から分離してConfederate States of America、連合国を形成。合衆国に留まる北部23州と争った。もし南部が勝ってれば今頃はUSAでは無くCSA(笑)。主力のテキサス州は約200年前の独立国家を取り戻す運動は今でも続く。南北戦争を経て併合され、最近まで最高裁で独立を争う裁判まで起こした。経済が豊かなカリフォルニア州やフロリダ州も然り。本作のプロットはアメリカ市民が見れば、決して絵空事では無い。

ニューヨークを拠点とする「A24」製作。民主党支持を鮮明にするスタジオ。東部の地政学を考えると、ニューヨーク、ワシントンは南部や西部を、露骨に言えば田舎者扱い。東京をお江戸の人と言う京都人が何言ってんねんと言う話ですが(笑)。本作に登場する「悪」=共和党支持者、Donald Trumpを念頭に創られてる。ソレを異国人の監督は分断は現実で憶測では無いとシニカルに描いてる。「Dystopia Touch」コレが本作のテーマ。

ジャーナリストと言う一見ニュートラルな主人公は、死にそうな人を救う事はしない。ソレをすれば職務放棄、彼等の使命は「記録」Kirsten Dunstも「自問自答するの止めて記録しなさい」心得を諭す。字幕や吹替えでは分かり難いがアメリカ英語「Shoot」は、カメラで撮影、銃を撃つ、2つの意味が重なる。監督の祖父が海外特派員と言うジャーナリズムも頷ける。緻密な音響設計も聴き所。臨場感を高める為に映画用の空砲では無く、本物の空砲を使用した銃器の重低音の臨場感は是非、劇場で味わって欲しい。もう、手遅れか?(笑)。国内もアニメやアイドルを押し退け、洋画が初登場1位と成るサプライズ。此の頃は衆議院の解散総選挙も行われたが、結果は皆さまご存じの通り。

【ネタバレ】物語の核心に触れる考察へ移ります。自己責任でご覧下さい【閲覧注意!】

本日の名言「Which American is that?」有名俳優が土壇場で「あのシーンには納得出来ない」降板。赤い眼鏡はグレーディンググラス、アクション映画に詳しい方は御存知だろう。赤以外の全ての可視波長を遮断、肌の明暗も見分けられる。なぜ赤色か?、アメリカで赤と言えば共和党。サブリミナルで共和党を悪者に。ノンクレジットを条件に引き受けたが、推選したのは主演Kirsten Dunst、演じたのは彼女の夫Jesse Plemons。

監督の作品に皆勤賞の東京生まれSonoya Mizunoは、Anya役で出演。本作の元ネタはレビュー済「ニューオーダー」近未来のメキシコを舞台に、市民の暴動が軍事クーデターに発展して社会秩序が崩壊する様を描くディストピアスリラー。リアルと言う意味ではホワイトハウス攻防戦は本物の元軍人が演じてる。「A24」が卑怯なのは露骨に共和党を悪者にするが、映画では大統領の名前も政党も一切明かさない。

アメリカには各州に州兵が配備され、空軍基地も随所に点在、庶民も武装した民兵組織が有る。議事堂襲撃事件も民兵の仕業と噂される。監督の悪い癖で相変わらず全体像の説明が欠損。開始時点でメインは「Western Forces」、他に「Florida Alliance」「New People’s Army」反政府軍。「Loyalist States」名前の通り正規軍、アメリカは侵略されるのは北か西側と決め付けてるので、イギリスやEU側の東部の守りは極めて脆弱。ソコに付け込まれたのが「9 11」。New People’sは名前からして共産主義、アメリカが一番恐れてる中国が市民を扇動して政府を転覆させる、背後にはロシアと北朝鮮が居る。

世論も二分され「素晴らしい世界観」褒めるのか、「分裂を誇張して大衆の政治への意識を弱めてる」捉えるか?。本来なら同盟国のイギリス、日本も内戦に干渉するのは当たり前だが、政治は風刺するけど非政治的なラインは超えないのは、民主党らしく弱腰で綺麗事にしか見えない。特徴的なのは非武装地帯「何方にも無関心なら平穏」私はソレを聞いてゾッとした。今の日本人と同じ立ち位置。戦争してるのに無関心では結局の処、あの街は双方から攻撃され壊滅する。相手を追い返すだけの軍事力は日本にも必要なのだ。本作を見て「右派と左派が対立してるから駄目なんだよ」と言うレビューの方、今からバケツに水を入れて頭から被るが良い。貴方には事の本質が全く見えてない。

「政治から逃げずに直視せよ」映画の政治の戦争は本作から開戦、なのかもしれない。

アメリカ大統領選挙は民主党Kamala Harris副大統領は惨敗。共和党Donald Trump前大統領が激戦区を全て勝利して圧勝。アメリカ国民は綺麗事より物価高、移民排除を選んだ。結果的に本作が選挙に与えた影響も微々たるモノだが、アメリカに流行語大賞が有るなら「お前は、どの種類のアメリカ人だ?」。私は京都人だが、今年の漢字の「金」、「重」に見えた方も居るようだが、清水寺の森清範貫主が書いた文字を良く見て欲しい。アレは将棋の駒の裏側「くずし字の金」つまり、裏の金「裏金」と言う意味なのだ。
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