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セカンドステップ 僕らの人生第2章のnetfilmsのレビュー・感想・評価

4.1
 『セカンドステップ 僕らの人生第2章』という極めて隠遁なタイトルだが、実際の中身はまぁとち狂っている。あのプライベート・シアターかと見紛うばかりのシネマート新宿7階の一番前で観たのだが、目が慣れるまではアスペクト比の見間違いかと思うほど、何か健全な昨今のアメリカ映画にはない映画のルックにひたすら困惑する。その触感を例えるならば、ハル・アシュビーの『ハロルドとモード』と、ポール・トーマス・アンダーソンの『パンチドランク・ラブ』を足して2で割ったような感じだとひとまず言っておきたい。全盛期の坂上二郎ばりのモンチッチな髪型をしたジェイソン・シュワルツマンもひたすら変で、おそらく現場では撮影監督がズームしますとあらかじめ言っているのだろうが、出来上がった映画を観て演じた役者たちはここまで近いのかとびっくりしたに違いない。一言で言えば全画面全シークエンスが被写体との距離を正しく据えられていない。ネイサン・シルヴァーの映画を観るのは初めてなのだが、おそらくわざと距離をバグらせている。カメラマンのショーン・プライス・ウィリアムズは名作『ファニー・ページ』の撮影監督でもある辺りがよりその辺りを裏付ける。

 ニューヨーク郊外。突如事故で妻を失い、信仰の危機に陥ったユダヤ教の先唱者40歳のベン(ジェイソン・シュワルツマン)。人生を諦めかけていた矢先、ベンは彼の音楽教師だったカーラ(キャロル・ケイン)と奇跡の再会を果たす。ところが、70歳のカーラはユダヤ教徒の13歳の成人式「バット・ミツバ」をしたいという。妻の死を経て、過干渉な親たちに囲まれた実家に戻った40歳のベンの様子は序盤から明らかにおかしい。大型トラックに轢いてくださいと言わんばかりの態度で身構えるが逆に介抱され、呑み屋へと連れ戻される。そこで彼は小学生時代の音楽教師と奇跡的な再開を果たす。どうやらボーイ・ミーツ・ガールな瞬間とはティーンではなくてもあるらしい。噂はすぐに拡がる狭い街で、会堂(シナゴーグ)での礼拝において、祈りと歌で会衆を導く役は勃起不全に陥っている。そこには70年代のヴェトナム退役軍人のPTSDがオーバーラップする。2人にとって連れ添ったパートナーの不在が重くのし掛かる。私はユダヤ教という宗教には門外漢だが、アメリカでは今や人種以上に宗教こそがもの言う世界なのかもしれない。あえて歪な人々を登場させながら、家族というのは血脈ではなく、思想・宗教であることの恐ろしさをあえて紐解く。その過剰なルックは明らかに70年代オマージュでありながら、どこか愛しい気にさせられる。
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