60作を超えるVシネマの金字塔『日本統一』シリーズの劇場版、『日本統一』10周年記念作品、ネオVシネ四天王・本宮泰風の記念すべき主演作…などなど、記念碑的な意味合いが強い作品。このタイミングで“今まで描かれて来なかった、氷室蓮司の父親としての側面にフィーチャーする”というコンセプトに振り切ったのはなかなか思い切ったと思う。
ファンとしてうれしかったのは「氷室蓮司」という男の厚みを存分に感じられたこと。
日本語が堪能な女性刑事・楊愛玲(リュウ・ツーイー)や台湾在住の元半グレ・篠原(黒羽麻璃央)を巧みに利用しながら事件の謎解きをする姿は、やはり切れ者の「侠和会若頭」。
アクションシーンでもステゴロ、ガンアクション、さらにはフォークリフトまで使い、傷だらけになってとことん戦う。中盤の一対多数のステゴロ勝負は必見だ。
一方で言葉が通じず、相棒の田村(山口祥行)もいないところで見せる余裕のない顔は普段の完璧超人ぶりからほど遠い。焦る氷室と、台湾の熱気を孕んだビビットな風景が実にマッチしている。
ジリジリと息子救出の機会を伺う中で、改めて“日本統一とは何か”を問われる氷室。真っすぐ前だけを見つめて答える姿、そう、私たちはこれが見たかった! これぞ10年続く作品の持つ力を感じるシーンだ。
それでもなお、所詮は氷室含め侠和会も人殺し集団だと煽る敵のボス・林(イン・ランフォン)。それに「アァ⁉」と凄むのがかっこいい! 見せ場に次ぐ見せ場!
だが、この自己中心的な考えを暴力で押し通そうとする姿こそがヤクザで、どうしようもない社会のはみ出し者なのだ。このスタンスを忘れないでいてくれるから、『日本統一』は信用できる。
惜しむらくは、この映画には“女性”が活きていないこと。紅一点であるはずの愛玲は(その性的志向も含め)ほぼ男性の役割を背負わされた役だし、声だけの出演とはいえ氷室の妻・涼子(松本若菜)は記号的な女性像しか見えない。これは『山崎一門7』のあきこ(奥山かずさ)と同様だ。
辻監督の男を魅力的に撮る方法の多さは愛してやまないが、どうも女性を撮ることには興味がないのだろうか。
映画としては台湾で巻き起こる氷室の息子・悠太(山岡樹)の誘拐と警察署を標的にした爆弾テロという、ミステリーとサスペンスで構成された一つの作品として成立しており、本編未履修でも大丈夫。男が惚れる男を描いた傑作だ。