国際線に乗ってこれ観たよ6本目。(と言って乗ったの9月だからな、、、だいぶ記憶が薄れてきて…笑)
今回は『セイント・フランシス』のアレックス・トンプソン&ケリー・オサリヴァンによる感動作。
【物語】
シカゴで建設業者として働くダンは息子を自殺で失って以降、仕事や家族との距離が悪化していたある日、町で偶然出会ったリマに地元の劇場で舞台稽古をしている劇団を紹介される。
思いのほか舞台に興味を持ち、劇団に参加し始めた彼は、舞台の演目『ロミオとジュリエット』の芝居を練習していくなかで題材が描く結末と、息子を失った喪失感が重なり苦しむが、劇団員たちと本読みや芝居練習を続けていくなかで次第に笑顔が増え、元々舞台が好きだった娘と過ごす時間も増えていくようになり…。
【感想】
自分は舞台があまり詳しくなく、映画のタイトルになっている「ghostlight」とは公演が終わったときに真っ暗になった舞台を照らすランプを指す言葉だそうで、映画鑑賞後の余韻として素敵なタイトルだと思った。
完全なる真っ暗闇ではない、一筋の光。
息子を亡くしたことで残された家族たちとの暮らし方や仕事において歯車が回らなくなってしまった主人公ダンだったけれど、それでも舞台と関わるようになることで最初は自分自身の人生、次に娘や妻との人生にとって良い作用に働いていくようになる。
舞台稽古も、いつかは発表する場があり、終わったらお客さんは帰っていく。
でも、観終わった余韻、感動は人それぞれの心のなかに宿り、もしかするとその感動はまた別の誰かに伝播していくかもしれない。
色々な意味に想いを馳せることができる、素敵なタイトルだと思った。
精神的にどん底だったダンにとって劇団員たちは、出会ったばかりの舞台仲間に過ぎないかもしれない。
でも、芝居練習をしながらもセリフの内容から役が自身の過去を想起させ、思わず涙を流す場面で、彼を支えようとする劇団員たちの姿に観ている自分も心動かされた。
そして仕事現場から劇場に移動し、練習してから家に帰ろうとする車中で、気付けば口ずさんだり思い出して笑みがこぼれるダンの表情の変化が良かった。
そんな彼の変化を怪しむ娘デイジーは父が舞台を始めたことを知り遠のいていた距離が次第に詰まっていく車中の場面や、舞台からしばらく離れていたデイジーを父同様に受け入れてくれたリタをはじめとする劇団員たちの暖かさが心地よかった。
特にリタは恐らくは長いこと地元でずっとコミュニティを組んで舞台を不定期にでも続けてきたであろう時間の長さを感じさせるし、それでいてダンのデイジーに舞台の魅力を再度気付かせる照明のような存在としてカッコよかった。
デイジーはデイジーでダン同様、兄の喪失は大きかったかもしれない。
彼女を知れば知るほど悪い子には見えないのに、学校では問題児扱いも受けていた。
彼女は元々舞台でお芝居をすることが好きで、まだまだ若い。
そんな彼女が一度手放した舞台演技を再び取り戻す笑顔のなんと素敵なことよ。
なるほどどんどんダンが、そして彼の家族が、止まってしまっていた人生を再び前に進めようとしていく、良い展開だ。
と思いながらも、本作は、ダンの舞台練習の一方で息子の死を巡る裁判に向けてお互いの弁護士を通じてある家庭と対話を続けていく場面が挟み込まれ、前に進みながらも過去は過去できちんと向き合い、折り合いをつけなければいけない状況が描かれる。
息子の死の真相が明らかになったあと、ダンは後半、ある想いを相手の家族や妻・娘に打ち明ける。
その言葉を聞いて妻のシャロンはダンに怒りを露わにするが、息子の死、デイジーを含む舞台仲間たちとの練習、題材となる『ロミオとジュリエット』、これらを通じたその時点でのダンのもがき苦しみながらの言葉には人生を単色では表現しきれない複雑さが滲む、説得力を感じた。
でも、当たり前だけどダンやデイジーだけでなく、シャロンも辛かったよ。
彼ら家族には、お互いにきちんと過去と向き合う時間を共有することが大事だった。
そしてラスト、舞台が終わったあとのダンや家族の姿にグッと来てしまった。
全体としては静かなトーンの映画で、大げさに感動を狙いにいったりもしていない。
決して単色でない人生を、家族や劇団などのコミュニティが優しく包み込んでくれる、暖かい感動をくれる映画だった。
この映画の静かなトーンに合った、エンドクレジットの出方がちょっとおしゃれで良かった。