プライ

フィリップのプライのレビュー・感想・評価

フィリップ(2022年製作の映画)
4.8
第二次世界大戦下、ナチスから恋人と家族を殺害されたポーランド系ユダヤ人が、フランス人と偽ってナチス将校の妻たちを次々と誘惑して復讐心を満たしていく物語。

戦争は被害者を生み、被害者は辛い思いをする。それ故、反戦を訴え続けることは、よくある話だ。だが、本作においては、戦争は被害者だけでなく復讐者を生み、復讐者は狂気の蛮行に打って出る。それ故、戦争は負の連鎖を齎し、更なる被害者の増加や混沌とした世界が誕生する。本作は、そういった観点から反戦を訴えていると思えた。そして、自分を苦しめる元凶の大元よりも、自分で手の届く範囲で元凶に関連するものへ制裁を与えていく構成は『タクシードライバー』・『ジョーカー』・『プロミシング・ヤング・ウーマン』等を彷彿させる。(ストーリーは『イングロリアス・バスターズ』のショシャナ編に似ているが)。なので、人間の復讐心は自身の半径に収まるのを選ぶという普遍性が見て取れる。本作は原作小説の筆者の実体験を基にしているから尚のこと説得力がある。

終始に渡って映像が凄い。まず、主人公を映す距離。結構な至近距離を維持することで、終始に渡って主人公の感情にライドし続けることが出来る。つぎに、超シームレスであること。長回しの演出やテンポよくカットを繋ぐことを用いて、川の如く映像が流れていく。非常に滑らか。前述の至近距離での撮影と相乗効果で、主人公の感情がスルスルと身体に流れてくる。さらに、結構な頻度で挿入される劇伴も主人公への感情表現に大きく貢献している。そして、1番に言及すべきは主人公を演じたエリック・クルム・Jr.の圧倒的なパワー。前述の通り、本作は主人公の感情が川の如く流れていく作品であるが、そもそもエリックの演技が上手い。主人公の感情が忙しく切り替わるのだが、その場その場の感情を短時間で画面に刻んで映像に流し込んでいる。また、本作ではナチス将校の妻が主人公に容易く惚れてしまい、側から見れば「惚れるの早っ(笑)」とツッコミを入れたくない。だが、エリックが瞬時に放つ独特な色気が確かな説得力を生んでおり、ツッコミを跳ね除けている。撮影距離、シームレスな演出および編集、エリックの好演と色気が素晴らしい映像を作っている。それにより、愛する身内を無くした主人公が、性愛を利用して復讐を満たす一方、新たに真の愛が芽生えていく過程が怒涛の勢いで流れ込んでいる。邦画で例えるなら、原田眞人さんの監督作に近いかも。


⭐評価
脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐⭐
演出・映像   :⭐⭐⭐⭐⭐️
登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐
設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐
星の総数    :計19個
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