垂直落下式サミング

数分間のエールをの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

数分間のエールを(2024年製作の映画)
3.5
ミュージックビデオの制作に情熱を注ぐ男子高校生と、音楽の道を諦めた女性教師の出会いを軸に、「モノづくり」の楽しさや苦しみを瑞々しく描いたオリジナル長編アニメーション。製作したのは、ヨルシカのMVを作ってるチーム。
映像作家を目指す主人公カナタくん。全身全霊でがんばれ!一点集中!みたいなパワフルなバイタリティーを持っており、将来有望で眩しいですね。僕も、与沢翼の本とか読んだあとの数日間は、マッチョな成功論に感化されてこんな感じだったかも。
これから、エンターテイメントの業界に進もうとしているキッズたちにとっては、いい自己啓発本の役割をすると思う。若ければ若いほど効果効能があると思われるので、これをみて感化されて、盛大に足を踏み外してみてほしい。ぶち抜いた人間になるのだっ!
しかし、まー、三十路にとって、この青さは苦しい。主人公は、真っ直ぐさが鼻につくタイプ。先生は歌手になれなかったんだから、もうほっといてあげなよ。
オリエ先生は、星を追えなくなったお疲れ系女子。カリカチュアされすぎ。これから彼自身が経験するであろう挫折や苦しみについて、あんまり軽々しく口で説明するもんじゃないよ。それ、人生のネタバレだからさ。
それでもめげないズケズケ系の主人公に共感できなくなったら、もうおじさんだわね。海賊王を目指すだけが人生じゃないっしょ。世の中「うるせェ!!!いこう!!!」で決意が固まるチョッパーばかりじゃないのよ。
あー、うっせえなぁ…。てめえのこと語る前に手え動かせよ。って、思っちゃうの。ホント、現場主義な感性の人間になっちゃった。いやんなるくらい。
そんで、もうひとつ。俺はエンタメ業界のやつが自分の仕事のことを、「モノづくり」って呼ぶのが超だいっ嫌いなもんですから、そういうセリフが一個でもあると反発したくなる。
エンジニアや技術者が言うんならいいが、歌手とかイラストレーターとかデザイナーとかクリエイティブ系の人が「モノづくり」とか言い出すの、すっげえダサくない?これ言うやつホントにキライ!
職人ぶってんじゃねーよ!おたくらクリエイターなんでしょ?表現者なんでしょ?だったらブルーカラーの領分まで侵しに来てんなって。ナイーブなツラでメソメソしてるやつなんて、「モノづくり」界隈には、お呼びじゃないです。つーか、そんなこと言ってっから、音楽で食えなかったんだよ。この感覚、俺だけかなぁ?
YouTubeでみれるカナタくんのMVは、あえて中二病っぽいセンスを溢れさせてるのがよかったです。文化系高校生らしい拙さや青臭さはあるけど、素人目に見たらこんなの即戦力じゃない?てな具合の塩梅。このまま、圧倒的に何者かになっちゃうタイプですね。がんばれって応援したくなる。
この男の子は、好きを仕事にしても、食いっぱぐれないでいてほしい!あまりの共感のできない青臭さのある主人公でしたが、映画を見終えたら、不思議と親心のような思い入れを乗っけていました。
カナタくんは、アーティストが自分から言う「モノづくり」という言葉の恥ずかしさが、次第にわかってくるタイプの子だと思うな。今となっては幼い中二病なイキりも可愛かったわねって感じです。