あらすじ:漫画で救える魂を救う、それが私の使命。
絵が上手くて人気者の小学生藤野は、ある日不登校の京本が描いた漫画をみて衝撃を受け…というお話。
人と比較してしまうけど社交的な藤野と、脇目も振らないけど引きこもりな京本。理想的なコンビだった二人は、人生を忘れるほど何かに没頭している時間、すなわち人生を謳歌していた。
「残された俺の使命は、あの頃の初志を生涯忘れず、漫画で救える魂を救うことだ。」ということなんだろう。影響力を手にして、最も世界に発信したかった決意表明がこれなんだろう。
素晴らしいし立派なんだけど、さすがにストレート過ぎるし重過ぎる。これって例えば、紛争にインスパイアされて作った楽曲の歌詞が、「紛争にインスパイアされた私は音楽で人の魂を救いたいと思った」なのと同じだと思う。あまりに作り手の意見そのもの過ぎて、作品として昇華されている感が乏しかった。
また、クライマックスの思い出シークエンスがしつこかった。同じ役割のシーンを重ねて伝えたい気持ちは分かるけど、過ぎるとかえって主題が弱くなる。
あと何より、ライフワークに辿り着いて成功するまで、挫折や葛藤がほぼゼロというのが、リアリティが無くて(作者的にはあるのかもしれないが)冷めた。
最後に、この聖人君子みたいな生き方を続けると、精神はいつか限界を迎えて、破綻する可能性が極めて高いだろう。志は無論大事なんだけど、他人や世界は冷静に吟味したりスルーしたりしないと、志と無関係なことで感情が動き過ぎて疲れ果て、現実で志を貫くのがむしろ難しくなると思う。
正義感が強いせいか大衆を侮っているせいか、やや視野が狭く、他者や社会に不必要に苛立っている感じがして、藤本タツキ作品はちょっとしんどい。