幽斎

めまいの幽斎のレビュー・感想・評価

めまい(1958年製作の映画)
5.0
私のFilmarksのIDは@sir hitchcock。スリラーの神様Alfred Hitchcockの作品は中学時代に観れる映画は全て見た。子供の頃からミステリー好きだった私のライフ・ワークは、神様に形作られたと言って過言でない。フォロワーさんからお薦めをよく聞かれるが、FilmarksベストムービーにHitchcock作品は1つもない。当たり前だ、神様の作品に順列など、ナンセンスの極み。優劣で無く好きな作品を1つ挙げるなら「めまい」。1958年幽斎的ベストムービー作品。

原作はフランスのミステリー作家Boileau-Narcejac「死者の中から」ハヤカワ・ミステリ文庫。この作家と言えば「悪魔のような女」「犠牲者たち」の方が評価高いが「美しい悪夢」のプロットはフレンチ・スリラーらしく、心理的錯誤を誘発するトリックが秀逸。凡庸な表現で「ミステリーとロマンスを融合させた」と言えるが、Hitchcockが選んだ理由はVera Milesにヒロインを「演じさせたい」。原作とタイプが違う清楚で可憐な女性をイメージして製作に取り掛かるが、Milesが妊娠と言う想定外の事態が訪れる。

James Stewartを始めとするスターがスタンバイする中で、パラマウントが用意したのが、正反対のKim Novak。コロンビア(現ソニー・ピクチャーズ)から急遽レンタル(当時は専属女優制度)今ほど監督の権限も強くなく、渋々製作スタート。当初からHitchcockと険悪で彼女の嫌いな色の服を着せたり、極め付けはサンフランシスコ湾に飛び込ませる等、女性蔑視のイデオロギーが批判されるHitchcockの中でも際立ってDVが過ぎる。アカデミーに選出された時も「これは失敗作だ」ご機嫌斜め。しかし、苛烈な演出が作品にマッチして、トップクラスの傑作と評価される。作品同様、皮肉めいた結末。

Hitchcockは「間違えられた男」妻ローズ役Milesを気に入り、彼女を本格的に「自分で」スターに育てる為に選んだが、嫉妬深いHitchcockはこれで終わらず、ジュディがカンザス出身の田舎者と言う設定は、ミス・カンザス3位のMilesを皮肉ったモノ、何処までも嫌味が隠れた所で効いてる、もしかして京都人か?"笑"。一方でミッジ役はHitchcockの「相談役」として支え続けた妻Alma Revilleのイメージを投影。妻への信頼度は絶大で、戦国時代の軍師的存在。大物監督には珍しく、生涯で一度も離婚がない。詳しくは2013年「ヒッチコック」で描かれてる。因みにカメオ出演は造船所の前を通り過ぎる通行人。

原作は推理小説ですが、本作に投げ掛けられた謎は「誰が本当のヒロインなのか?」です。「死者の中から」のダークな情念は素晴らしい映像表現で、随所に原作の痕跡が感じられるが、一人二役はフェイク・トリアージ、製作過程を長々説明した様にヒロインは監督本来の姿ではない。ミステリーなので答えは控えますが、ヒントは代表作「サイコ」にも通じる無償の愛。芸術性も高いと絶賛される根底には、優れた「人生のテーマ」も隠されてる。プロットに惑わされず、人間ドラマとして観て欲しい。

原作にない謎「めまい」螺旋の解釈。スリラーは表層で本筋は人生と言いましたが、それを具現化したのが稀代のグラフィクデザイナー、Saul Bass。本作が傑作たる故の50%は彼の功績が大きい。螺旋の考察は評論家が成されてるので、多くは語りませんが、ファースト・ショットはNovakの唇。其処から唇は女性器を意味し、瞳は乳房を意味するので2つ。全体が女性其の物でNovak自体が裸体のメタファー。赤い瞳は膣を意味し螺旋は其処から産まれるスパイラル・エモーション。描かれるシーンは、最終形態「出産」に繋げる為の撒き餌と解釈。建物から落ちて行く人は、母親が産み落とす生への不安とシンクロ。高所恐怖症はトラップに過ぎず、真の恐怖は「この世に生まれる」母胎のトラウマ。リインカーネーションを意味するBassの見事なイメージングは、Brian De Palma、Steven Spielberg等多くのフォロワーを生み出した。本作は単に傑作、と言うだけでなく映画界の忘れる事の出来ない足跡として、これからも語り継がれるだろう。

マスター・オブ・サスペンス、生涯ベスト級の1本。1958年に創られた事もお忘れなく。
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