イタリアの医学生リッカルドがガザへ。自ら留学を希望。ガザに研修医として赴くヨーロッパ人は初めてとのこと。その様子を映すドキュメンタリー。2018年、数か月間のこと
彼を迎えるガザの人たちが皆とても親切で、しかも本当にとてもうれしそう。そうか、ガザ行きを自ら希望して来てくれる青年がいるってことが、きっとものすごくうれしいことなんだ。と、アタシは思う。ほとんどのガザ市民は、自分は外には行けない。外の世界をみることができない。世界から長く孤立させられているような場所。だから危険を承知のうえで来てくれることがどれほどうれしいことなのか。それがよく伝わってくる。
ヘンな言い方かもしれないけど、映画全体の雰囲気がびっくりするほど優しく穏やかで、彼とガザの人たちのあたたかな交流が描かれるので、「ガザ」というイメージから映画を観るのを躊躇ってしまう方が観たとしても、全然大丈夫な映画となっている。とても敷居が低い。壁がない。そのことも今作を稀有な作品としているように思う。ガザの人たちが両手を広げてウェルカムしてくれているような。「ガザ」の人々に対するイメージを覆す力を持っている作品だと感じた。
イスラエルによる深夜の爆撃など、彼らの日常は絶えず破壊される恐怖と隣り合わせにある。あたたかな交流が描かれる映画だからこそ、かえってその日常のなかにある緊張などがより強く伝わってくる。デモに参加するとイスラエルの狙撃手は脚を狙ってくるので(命を奪われる人も多数いる)、次々と病院には負傷した人たちが運ばれてくる。手当をする医師たちも、救急外科医を目指すリッカルドにとても丁寧に教示する。なんかそういう場面も観ていて胸が熱くなった。自分の持つ知識や技術を、伝達できる誰かがいるということも大事なことだ。
赴いた当初は不安や途惑いを吐露していたリッカルドがガザで居場所を見つけていく過程がとても丁寧に描かれる。居場所って、自分がそこで必要とされているって実感できる場所のことを言うのかもしれない。リッカルドさんと、ガザの人々が互いにかけがえのない存在になっていくのがとてもいい。同じ医学生のサアディや、弁護士を目指すアダムたちと過ごす時間のかけがえのなさ。サアディとの、文化の違いをめぐる対話も忘れられない。海外ジャーナリストと現地をつなぐ役割を担いたいという女性ジュマナもとても魅力的でした。
映画の最後には、彼らのその後や、撮影した場所のほとんどが2021年5月には崩壊していたということが示される。出演者はそのときは皆無事だったということだけれど、今現在はどうなんだろう。出演者だけじゃなく誰もがみな無事であってほしいと心から願うけど、そんなことわたくしごときが軽々しく口にしてもよいわけがないだろうと自分の無知を自分で恥じつつ、とにかく学んでいきたいと思っています
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遅ればせながら、岡真理『ガザとは何か—パレスチナを知るための緊急講義』2023年(大和書房)を読んでいるところに、これ以上はないという絶妙なタイミングで、snatchさんによる今作のレビューがタイムラインにあがっていました。snatchさんのレビューがなければ出会えなかった作品でした。ありがとうございます!
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〈追記 2024年10月〉
読んで良かった本
岡真理『ガザとは何か—パレスチナを知るための緊急講義』2023年(大和書房)
岡真理・小山哲・藤原辰史『中学生から知りたいパレスチナのこと』2024年(ミシマ社)