Jun潤

大きな家のJun潤のレビュー・感想・評価

大きな家(2024年製作の映画)
3.9
2024.12.24

企画・プロデュース:斎藤工
『14歳の栞』竹林亮監督・編集の、児童養護施設の日常に密着したドキュメンタリー。

東京のとある児童養護施設。
家族とも他人とも言い切れない、そんなつながりのなかで育つ子どもたちと、彼らを支える職員の日常に密着した作品。
(「Message」より)

“ふつう”ってなんだろうなぁ……
親と一緒に暮らし、学校から自分の実家に帰り、18歳を過ぎても親に支えてもらったりそうでもなかったり。
それが普通だというなら、施設で育つ子どもたちは“ふつう”といえないのか。
でも施設で育つ子どもたちには彼らなりの“ふつう”の日常があり、育つ環境が人それぞれ違うように彼らの日常もまた“ふつう”なんだってことを今作は伝えたかったのかなと。

ドラマを生み出しやすそうな、施設への入所、施設から退所をする年齢の子どもたちにフィーチャーするのではなく、入所して数年が経つ子どもから、退所を控える子ども、退所した後の子ども、様々な年齢の子どもたちの姿や、彼らを育て、見守り、支える職員の方々の姿を映し出す。
シリアスなドラマであれば子どもたちが持つ事情や背景、入所中、退所後に待ち受けているかもしれない現実の問題を、ネガティブに描いたりそこから好転していく物語になるのでしょうが、今作はあくまで“ふつう”の子どもたちの“ふつう”の日常を切り取っていました。

やはり印象的だったのは施設の子どもたちにとって施設や同じ施設にいる他の子どもたちはどのような存在なのだろうかということですね。
実家といわれると、外に本当の実家がある子どももいるし、家族かといわれると、本当の家族がいる人もいない人もいて、友達以上だとしても家族ほど深く入り込める存在というわけでもない。
しかしかといって他人かといわれると、側から見るとやはりそうは見えないし、そんなに言うと親や兄弟も自分ではないという点では他人なので、そこも含めて施設の子どもたちもまた“ふつう”なんだろうなと思います。

そして今作が“ふつう”の子どもたちが送る“ふつう”の日常を描いていたのであれば、彼らが迎える人生の節目もまた、親と一緒に暮らしている子どもたちと同じ“ふつう”のものなんだと感じました。
中学校入学、反抗期、高校入学、卒業、自立、その中で、他人や親の存在について、自分自身の存在について、将来のことについて考える機会。
施設で暮らしているからこそサマーキャンプや海外ボランティアが特別な意味を持つのではなく、親と離れて施設で暮らしていようと、親と一緒に実家で暮らしていようと、大人になる、社会に出ていく過程の中で迎え得る節目、それらもまた彼らだけの特別ではなく、子どもたちに平等に訪れる“ふつう”なんだと思いました。

『14歳の栞』と同じように、他のドキュメンタリーにはないような、竹林監督だからこそ出せる魅力が今作にもありましたね。
終盤でそれまでにフィーチャーしてきた子どもたちをもう一度映し出したり、製作陣が撮影した映像だけでなく子どもたちが撮影した写真や映像も使っていたり。
また、入所中の子どもたちが施設はあくまで施設であって、なるべく頼りたくはないと考える場所であっても、退所後は退所後でやはり施設に理由をつけて立ち寄りたくなったり、施設のことを実家と言ってみせたりと、そのあたりでも子どもたちの成長を描いていたように思います。

自分が過ごしている、過ごしてきたものとは違う日常を見せつけられて、新たな“ふつう”が芽生えるでもなく、“ふつう”の解釈が広がる、そんな作品でした。
Jun潤

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