【空に落ちる】
※ 公開記念舞台挨拶
原案となった詩集「ルート29、解放」のことは知らなかったけれど、映画「ルート29」は全編を通して、登場人物の話すセリフは詩を読み聞かせているようだ。
そして、綾瀬はるかさん演じるトンボこと中井のり子は、詩の聞き手だ。
現在4Kリマスターリバイバル上映されている「イル・ポスティーノ」で世界的詩人のパブロ・ネルーダが、詩は説明すると陳腐になるものだと言う場面があるが、この作品も登場人物の詩のような語りを感じるものじゃないかと思うのだ。
詩は書いたり読み聞かせたりする人がいて、そして、読んだり聞いたりする人がいて成立しているように感じさせる。
また、登場人物それぞれの話す内容は、絶望だったり、悲観だったり、ある種のジェラシーなどを含んでいるが、この映画は、トンボとハルの短い旅を通して、”人間”も”人間の社会”もそんなに悪いもんじゃないよと伝えようとしている気がする。
様々な想いを抱えながらも見返りを求めずに親切にしてくれる人たち。
詩の聞き役のトンボはそもそもそんな存在じゃないのか。
だから、母親の願いを受け取ってハルを探して、会わせてあげようとしたんじゃないのか。
それは、中学の頃に亡くした母への郷愁でもあるが、見返りを求めない親切でもあるように思える。
公開記念舞台挨拶で、綾瀬はるかさんはおまじないの場面が好きといっていた。
僕は、皆が静止している街を大きな赤い月が照らすなか、トンボが走る場面が好きだ。
これは叙景的で詩的なシーンだ。
また、ハルが途中で話す、自分が夢で見た話を説明する時に話していた「空に落ちる」という表現もとても詩的で好きなところだ。
空飛ぶ魚の話だ。
万人受けする作品じゃないのかもしれないが、この短いトンボとハルの旅を通じて何かを感じ取ることが出来るような作品になっている気がする。