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傲慢と善良のumisodachiのネタバレレビュー・内容・結末

傲慢と善良(2024年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます




辻村深月による小説を萩原健太郎監督が映画化。婚活アプリで知り合った男女の関係性の変化を軸に、現代における恋愛観や結婚観を炙り出す。原作既読。藤ヶ谷太輔(Kis-My-Ft2)と奈緒が物語の中心となる2人を演じている。

親が経営していたクラフトビールの会社を継ぎ、見た目にも都会的な風貌の架は、婚活アプリで何人もとのマッチングを繰り返して疲弊していた。しかし、遂に控え目な真実という女性に出会って交際を始める。順調に交際をしていた2人だったが、1年を過ぎた頃に真実がストーカーの影に怯え始める。それを機に同棲を開始し、とんとん拍子に婚約へと進んだもののの、ある日突然真実が姿を消してしまい……。

予告ではミステリー風になっているが、本作はミステリーではない。真実が姿を消した事情については比較的早いタイミングでわかってしまうし、そもそも謎を解くことがメインテーマではないからだ。

マッチングアプリで知り合った男女が交際し、婚約する。ただそれだけの、平凡にも感じる過程の中にある歪な価値観を炙り出すのが本作の目的であり、それは中盤で出てくるある人物によってほぼ完全な形で言葉として語られてしまう。その後は、その価値観を主人公たちが自覚し、反省し、何を思うのかを描いているにすぎない。だから、恋愛ミステリーだと信じて鑑賞した人は少し肩透かしを食らうのではないかと思う。

今の婚活では傲慢と善良が矛盾なく混在しているという主張はとても説得力がある。原作でもこの言葉のシーンがやはり最も印象的だった。「ピンとくる」とか「ビビッとくる」とかいう言葉の裏にある傲慢さを見事に言い当てている点には唸るしかないし、実際に婚活している人はけっこうショックを受けるかもしれない。いわば本作は「説教映画」なのだ。痛いところをピンポイントで突いてくる。

が、その説教自体には説得力があるとはいえ、言葉で読むのと映像で見るのはやはり違うわけで。原作よりも真実の行動が極端に見えて、単なるヤバい女では?というイメージになってしまっていた気がする。また、真実がボランティアを開始してからの展開が原作とは大きく異なり、より恋愛要素が強まっていた。私の印象では「架、こんなにクレイジーな相手でいいの?」という違和感が大きくなってしまった。私が架ならイヤだけどなー。

原作の真実は被災地において、瓦礫撤去やみかん畑の修復ではなく地図作りを担当する。その過程で様々な人と関わり、人間には色々な歴史や想いがあることなどを知っていく。そして、ある神社を見つけてそこが重要な場所になるのだが、そういった要素は映画ではバッサリカット。被災地で他の男子に好意を寄せられ、原作よりも回りくどい形で架と再会し、想いを打ち明けるという流れになっていた。地図を作ろうとする中で人や土地の歴史に触れ、個人同士の感情を超えた人間の繋がりのようなものを感じていくという原作の展開が好きだったので、映画版は浅くなってしまったなという印象を受けたのは否めない。

また、本作のヴィランは架の女ともだちなのだが、彼女たちの描き方もけっこう露悪的で。原作でも感じが悪い印象ではあるとはいえ、映画版はもっとハッキリと根本的に性格が最悪というイメージになっていた。原作は架の元カノに対する彼女たちの好意や同情心が根底にあった上での行動であり(架が元カノにした仕打ちにまだ腹を立てているというか)、加害欲求があるような底抜けに意地悪な人たちという感じではなかった気がするのだが。

とはいえ、原作でも真実と自分たちでは社会におけるレイヤーが違うという見下した視線は大いに含まれていたので、実質的なヴィランであること自体は変わらない。でもさ、明らかに狂言じゃんとしか思えない嘘に友人が振り回されていたら、その相手をなんとか切り離そうとするのはわかる気がするのだ。その場合、自分ならば相手を攻撃して問いただそうとするのではなくて、友人を説得するだろうなとは思うものの。

そして、映画版の架と真実は最後まで釣り合っていなかった気がする。架は鈍感すぎるし、真実は過敏すぎる。見た目にしても、原作よりも架が都会的でスタイリッシュな設定になりすぎているし、真実は野暮ったい服を着すぎている。原作ではそこまでは乖離していなかった気がするけどなあ。

示唆に富む教訓が含まれていることは確かだし、確実に現代に生きる人々の「真実」を言い当ててもいる作品なのは間違いない。特に今婚活中で上手くいっていない方は、説教されるつもりで臨んでもらいたい1本だ。
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