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シャイニングのkanacoのレビュー・感想・評価

シャイニング(1980年製作の映画)
3.0
キングの恐怖小説『シャイニング』をキューブリック監督が映画化した数々の有名なシーンを携えるホテル・ホラー。大幅な改変でストーリーそのものはコンパクト化した印象なるも、その代わりに映像だから可能となる〈視覚〉を刺激するような不気味でアート的なシーンの数々と役者陣の怪演が印象的かも😀✨(140文字)

****以下ネタバレあり&乱雑文****

📖#原作小説を読んで比較してみようシリーズ🐝

◆あらすじ◆
コロラド州の山中にあり、人里から離れた自然の美しさが魅力の歴史あるホテル【オーバールック】。小説家志望のジャック・トランスは、冬の間は豪雪で埋もれてしまうため閉鎖されるホテルの“管理人”をする仕事を引き受けた。なかなか進まぬ執筆もその静かな環境であれば完成するかもしれない。そんな期待もありジャックは妻のウェンディと幼い息子のダニーを引き連れてホテルに移り住む。豪華なホテルでの暮らしに希望を持つジャックとウェンディだったが、〈シャイニング〉という特別な能力を持っているダニーはこのホテルの不穏で恐ろしい雰囲気に不安を抱く。そしてその不安は現実のものとなり恐ろしいことが…。

❶キングの恐怖小説『シャイニング』をキューブリック監督が映画化した有名ホラー!

スティーヴン・キングの恐怖小説『シャイニング』をスタンリー・キューブリック監督が大幅に改変を施した、数々の有名なシーンを携えるホラー作品です。

私は高校生くらいの時に原作を読んで、大学生くらいの時に初めて映画を見ましたが、最初に象徴するワードの1つ〈レドラム(REDRUM)〉と『シャイニング』という作品の存在を知ったのは、『金田一少年の事件簿』の「蝋人形城殺人事件」の怪人〈Mrレッドラム〉から🤭それで興味を持って小説を手にした記憶があります。ちなみにキング小説を盛んに読んでいたのは高校生~大学生の頃なのですが(だから昔の作品しか知らないのですよね…😅)、当時は『シャイニング』が一番“怖い”小説だったような記憶あり…🤔

今回、十数年ぶりに再鑑賞するのでついでに原作も十数年ぶりに読み直そうということで〈原作小説→映画〉の流れでの鑑賞です。

舞台はコラルド州。ロッキー山脈が州を縦断していて、美しい山岳地帯の景観が広がっているところですが、そこに建っている歴史あるホテルが【オーバールック】。春から秋は従業員やお客さんで賑わっていますが、冬は雪や寒さの激しさによってホテルへの経路が完全に断たれてしまうため5カ月間ほど閉鎖します。しかしその間も管理人は必要であるため仕事人を募集します。仕事内容は冬の間にホテルに滞在し、ホテル内が凍ってしまわぬように所定の部屋にボイラーをつけて温めておくこと。作家志望のジャック・トランスは、冬の間に他人のいないホテルに閉じこもってボイラーをつけるだけの仕事が、執筆活動にもピッタリだと思いこの仕事を引き受け、妻と息子を連れてホテルに移り住みます。しかしこのホテル、かつて管理人をした男が孤独なホテルの環境によって精神を病み、妻と2人の幼い娘を惨殺したという“いわく”つき。そしてそのホテルの闇はやがてトランス一家をも飲み込んで行く…という物語です。

❷〈視覚〉を刺激する不気味でアート的な映像の数々と役者陣の怪演が印象的!

スタンリー・キューブリック監督は本作以外だと『時計仕掛けのオレンジ』しか見たことが無いので(しかもその難しさに面食らったので)、監督の作品について私は何も語れはしないのですが、この映画だけで言えばとてもアート的といいますか、何より〈視覚〉を刺激するようなインパクトの残る映像に最も注力した作品のような印象です。

自然の美しさが堪能できるような、人里から離れた場所に建つ雪に埋もれたホテルや景観の美しさ、由緒あるホテルの広々とした部屋や内装、三輪車で走り回るダニーを追いかけるローアングルのカメラワーク、人差し指で対話するダニーとトニー、ホテルの闇を象徴するような血のエレベーター、不気味にたたずむ双子の娘、237号室、ホール、裸の女、真実を映し出す鏡、そして〈REDRUM〉…。

映像以外でも、耳鳴りがするような不気味なBGMが映画を支配して鑑賞者の不安感や焦燥感を煽り、有名なジャック狂いはオーバーキルな暴れっぷり。ジャック・ニコルソンの怪演は憎らしくも恐ろしい。ところがジャックよりもそれに怯える妻のほぼ素の恐怖の〈表情〉の方が怖くて印象的なほど!(そしてこの撮影方法のブラックさも私は怖い…)。〈シャイニング〉という超能力をもつダニーですら、とても可哀そうな存在であるにも関わらず時に不気味さを感じさせます。

原作の改変は大きいのですが意外と出来事やその流れ、セリフは原作と同じところが多いです。ただしそれらシナリオやセリフをザクザクとそぎ落とし、絶妙に少しずつ情報を公開の順番を変えることで根本的な物語の核を正反対の方向へ走らせます。冒頭10分くらいで主人公に一体何が起きるか明示していたり、時にとても説明的なセリフが並んだり(=小説と同じ情報)、反対にまったく説明しない意味深な映像だけを差し込んでくること(=映画オリジナルの情報)も多々で、話自体はシンプルに見えるのに筋立てようとすると案外「よく分からない」という、摩訶不思議な作品でした。

そして正直なところ、この映画が好みかと言われれば「うーむ」🤔映画だからこそ演出できる映像の美しさやインパクトある不気味な演出、役者陣の狂気に満ちた演技が堪能できるところは素敵。

ただし展開そのものは少ないのに全体的にゆったりとしたテンポ、十二分な尺を確保することも含め全体的な長さを感じてしまいました。「話進まないなぁ~」と何度思ったことか。初見はそうでもなかったですが、ある程度の内容やシーンを知っている2回目の鑑賞では特に。匂わせありきでまとめる内容で144分は私にはちょっと辛かった。物語そのものも延々と〈冷たい〉お話なので、どこまでいっても気分が上がらないのも率直な感想でした(まぁ、ホラーなのでそれも良いのだと思いますが😌)。

私個人の趣味だと一長一短。
そう、つまりこれは…ザ、3.0!!!(ΦωΦ)カッ(迫真)
(私のもっとも普通という値)


❸【完全ネタバレ注意!!】小説と映画の相違点と比較

自分用に映画と小説の相違点を書き出します。完全ネタバレ、長文かつまとまり無し(十数年前に双方1回触れたとはいえ、今回も1回しか見てないし読んでないので誤りもあるかも…)のため一番後ろに記載します。ご興味のある方だけ大らかなお気持ちでご覧いただけると幸いです。今回もめっちゃ長いです😑💦

📖🐝「映画にある様々なシーンが色々なコンテンツでオマージュされていて凄いですよね。雪によって封じられていく闇深いホテルの雰囲気も美しいので、深々とした冬の夜などに見るにはちょうど良い映画かも、と思いました😀✨」







★゜。☆。゜★゜。☆。゜★゜。☆。゜★

❸【完全ネタバレ注意!!】小説と映画の相違点

以下、映画版と小説版の展開や結末に対する完全なネタバレがありますので未鑑賞、未読の方はご注意ください。

【シャイニング(かがやき)とは】
映画ではあまり解説されていなかったと思うのですが、こちらの能力は映画も小説も同じだと思うので小説の方の準拠で記載。

『シャイニング』は超能力。大勢の人が持っているが気がついていないもの。その種類は様々であり強さも人によるが、いわゆるちょっとした〈カンの鋭さ〉も『シャイニング』の1つと言える。

能力の種類で言えば、テレパシー能力、霊視、思念を相手にぶつけるような攻撃力、距離を問わずに相手の感情や考えを読むようなリーディング能力(対象者の思いが大きければ大きいほどその感情は能力者に流れ込んでくる)、そして“これから起きること”を視ることができ(=予知能力)、また“すでに起こってしまったこと”を視ることができる(=その場所の過去の記憶や思念を映像化して幻視)等。ハローランとダニーはこれら能力を全て持ち合わせており、ハローランが言うにはダニーの力は最も強力。

小説はこの中でテレパシー、心を読むリーディング能力、予知能力、そして過去の事件を幻視する力がダニーの中で特に発揮されて物語が進んで行きますが、映画版だと過去の事件やホテルの記憶・思念を幻視する力とテレパシーの2つのみが演出として際立っているかと思います。

また、ダニーの前にはトニーという少年が度々現れますが(小説では姿を現し、映画ではダニーが声色を変えて自分の人差し指と会話する)、両親はトニーをイマジナリーフレンドだと考えているもダニーはそうでないことを知っています。トニーは『シャイニング』の能力のうちの1つであり、警告やビジョンを見せることで、ホテルで起こる危険な出来事をダニーに予測させます。映画だとトニーは正体不明で不気味な恐怖演出の1つであるのみですが、小説だと彼はダニーと両親、ハローランを助けるためにダニーに忠告をしにやってきた、10年後のダニーです。

【ストーリー】
映画:映画はあまり明朗には語らないなで考察となります。

ジャック・トランスはアルコール依存症であり、酒でダニーの腕を折った過去があり、小説の執筆のために【オーバールック】の管理人の仕事を引き受け家族で移動します。初日に出会ったホテルの料理長・ハローランはダニーと同じ能力を持っており、ダニーに「シャイニング」という能力がどういうものであるかを教え、237号室には特に注意することも伝えます。

そしてトランス一家だけのホテル滞在の日々が始まります。それからすぐに、ダニーが『シャイニング』によってホテル内で恐ろしい幻視をいくつも見るので、〈ホテル〉自体も怪異のような存在だとは思いますが、それ以上にジャックはうまくいかない仕事に大きなストレスを抱えており、後にジャックが狂気染みた言動をし始めると、幽霊どうこう言うよりは〈本人の精神的な病〉にも見えます。ジャックは自分のうまくいかない全てを妻子(特に妻)に責任転嫁しており家族が疎ましくて我慢ならないようです。一方で〈ホテル〉に対する印象は良いらしく、家族を蔑む代わりに〈ホテルの人間…ただし本来ここには親子3人しかいないはずですが…〉には友好的な態度を示します。〈ホテル〉の方も「あなたはずっと昔からここの管理人だ」という謎めいた言葉をジャックにかけます。

結局のところ、ホテルの孤独と〈闇〉に吞まれたのか、ただただ精神を病んで自分の都合の良い幻覚を見て吹っ切れたのか、その両方なのか…〈ホテル〉から妻子への〈しつけ〉を提言されて納得したジャックは、妻子を殺すことで自分の精神安定を得ようと殺人鬼、狂人と化しました。ジャックは妻子を殺そうと凶器を持って追い回し、ダニーの危機をシャイニングで感知し助けに来たハローランを殺害。最終的にダニーを追って庭の巨大迷路に入ります。ダニーは機転を利かせて逃げきりウェンディと合流。ハローランの車に乗ってこの恐ろしい【父親】からも【オーバールック】からも脱出します。迷路から出られなかったジャックはその場で凍死。

誰もいなくなったホテルには“ある写真”が残っていました。それは1921のパーティーの白黒写真。このとても古い写真の最前列・中央に映っているのは、ジャック・トランスと瓜二つの男でした【END】

➡小説:小説は何が起こったかを文章化してくれます。

ジャック・トランスはアルコール依存症で酒に酔いダニーの腕を折った過去があります。それに加えて癇癪持ちでありそれが原因で教師職をクビになったため小説家志望に転身しています。アルコールは今も魅力的に感じ癇癪を抑えるのも不安定で完全に守っているとは言えない中、家族への愛は持っており、ダニーにしてしまった事故について深く悔やんでいます。ウェンディはジャックがダニーの腕を折ってから、ジャックへの信用を失ってすでに離婚を切り出しているも、決定打とはなっておらず夫婦生活を続けている状態です。それはダニーのためですが夫への疑心暗鬼は晴れていません。またジャックもウェンディも実は自分の毒親へのトラウマがあり、自分にあるかもしれない(自分の親のような)素質に怯えてもいます。ダニーは両親が知らない『シャイニング』の能力によって、ジャックがウェンディに隠しているいくつかの「悪いこと」や、ウェンディが離婚を進めようとしていることを知っています。ダニーが最も恐れているのは大好きな2人が離婚して家族が離れ離れになってしまうこと。そうならないようにダニーなりに懸命に2人に働きかけています。

このような状況で、トランス一家は経済的に厳しいこと、執筆活動に適していることから【オーバールック】の冬の管理人仕事を引き受け家族で移動しました。初日に出会ったホテルの料理長・ハローランはダニーと同じ能力を持っており、ダニーに「シャイニング」という能力がどういうものであるかを教え、我々は予知を視るがそれは必ずしもそうなるとは限らないこと、怖い幻視をするかもしれないがそれはあくまで映像であり我々に物理的な干渉はできないこと、217号室には特に注意すること、そしてもし困ったことが起きたらテレパシーで自分に助け呼ぶように伝えます。

そしてトランス一家だけのホテル滞在の日々が始まります。しかしジャックの不注意のためにダニーがスズメバチに複数回刺されてしまい、夫婦の間に亀裂が入ります。実はこれは邪悪な意思をもつ〈ホテル〉による仕業でした。〈ホテル〉からジャックへの干渉は続き、過去と今のストレスによって精神的な不安を抱えるジャックは〈ホテル〉の誘惑に乗ってしまい、最終的には〈ホテル〉に体と意識を乗っ取られ妻子を殺そうと凶器を持って襲います。ウェンディはホテルの異常な雰囲気やジャックの様子、ダニーから語られる真実から、ジャックがホテルに乗っ取られてしまったことや、ホテルが力を強くしていることを理解します。さらに、ホテルが力を強くしているのはダニーの「シャイニング」の影響であること、その力を吸収することがホテルの目的であること、ホテルはジャックだけに干渉ができジャックに乗り移ったことで物理的に自分たちを殺せるようになったということも…。

ダニーはハローランをテレパシーで呼び、妻子はジャックと攻防しますがバラバラとなります。乗り移られたジャックとダニーが1対1になった時、ダニーはまだ僅かに体に残っている本物の父に懸命に話しかけ、そしてジャックは束の間自分を取り戻し、自分を見捨てて逃げるようにダニーに訴えます。ダニーはそれを拒否しますが、この間にジャックは完全に〈ホテル〉に乗っ取られます。しかしこの父親との最期の再会によって、ダニーは父親が朝につけたボイラーを消し忘れたことをシャイニングで読み取ります。「今朝から圧力を下げていない!もうすぐ爆発するぞ!」

建物が燃えてしまうという危機にジャックの姿をした〈ホテル〉はダニーを追っている場合ではなくなり、その隙にダニーは逃げ出します。ダニーはウェンディと助けにきたハローランと合流し、ハローランの車で脱出します。ホテルはボイラーの爆発によって火柱を上げて燃え上がり〈ホテル〉もろとも消滅します【END】

推察にはなりますが映画版は〈ホテル〉の目的はジャックです。〈ホテル〉が「あなたはずっと昔からここの管理人だ」とジャックに告げたり、ラストにジャックが生まれていない時代の写真にジャックの瓜二つの男(ポジション的におそらく管理人?)が映っていることから、生まれ変わりか何か…🤔

少なくともジャックが狂人と化したのは(ホテルのアシストがあったにせよ)彼の内なるところが最たる原因であるように描かれており、〈ホテルとジャック〉に大きな因縁があったような感じです。また父と母子は決別し、父から家族への愛情を感じるような様子はほぼありません。ハローランとダニーの関係も含め、母と子以外の人間の絆や友愛はそぎ落とした物語です。ホテルの勝利。父子や夫婦の愛は怪異に負けます。

一方、原作は〈ホテル〉の目的はダニーです。ダニーの「シャイニング」をホテルの力として取り込もうとします。そのために〈ホテル〉は脆い父親を狙って体を奪い、物理的にダニーを殺そうとしてきます。進行ではジャック、ウェンディ、ダニー、そしてハローランの視点をクルクルと回しながら書いていくので、それぞれのキャラクターが今何をしていて、どういうバックボーンを持ち、どう感じているのか、どう心境の変化があったのかなどを詳細に綴っていきます。妻子は狂人と化したジャックが夫(または父)の本当の意思ではなく、ジャックに憑りついた〈ホテル〉が襲ってきたことを理解しています。ウェンディもハローランも、そして最期にはジャックもダニーを守るために〈ホテル〉と闘うという、ホラーにしては本筋が親の愛や友情の物語となっています。犠牲はあるも一応人間の勝利。親子の愛が怪異に勝ちます。

そんなkanacoの2作品の印象の相違🤔

★゜。☆。゜★゜。☆。゜★゜。☆。゜★

というわけで、原作はホラー的描写も怖いのですが人間の親子愛や夫婦愛、師弟関係のような友情、各キャラクターの葛藤の物語…な成分も多く、どちらかというとドラマチックな流れです。

一方、映画はそれらを潔くカットするため〈ホテル〉との因縁をジャックだけに改変して〈世にも奇妙さ〉を強くした感じ。映画はそれによってストーリーがけっこうコンパクト化したというか、それだけでいったら30分くらいのショートでもできちゃいそう。その余白部分に映像だからできる表現をダニーの「シャイニング」やジャックの凶暴化演出などを存分に入れ込んでいった印象を受けました。

昨今、原作改変については色々と思うところがあるのですが、それをいったん他所において、スタンリー・キューブリックの一切の迷いないような自分流へ改造はなかなかのパワーを感じたかも?『時計仕掛けのオレンジ』は原作を読んだことないまま映画を見ましたが、こちらもけっこうキューブリックなカスタマイズされていたのかな??🤔

※スティーヴン・キング著
『シャイニング 上』『シャイニング 下』 
文藝文庫 深町真理子訳
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