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[イギリス、少女と妖精おじさん] 50点
2024年カンヌ映画祭コンペ部門選出作品。アンドレア・アーノルド長編五作目。バリー・コーガンが主人公の父親であることを認識するのに時間が掛かってしまったので先に記しておく。12歳のベイリーは父親のバグ、異母兄ハンターとケント州北部の荒れたマンションに暮らしている。週末にバグが再婚することをいきなり伝えられたベイリーは、怒って髪をバリカンで短く切って家を飛び出す。ハンターと同年代の仲間たちは自警団を名乗って市民に私刑を加えており、ベイリーも参加を表明するが認められない。そんな中、"バード"と名乗る中年男性の両親探しの旅に力を貸すことになる云々。おじさんと少女という構図を見るに、他の作品だと悩めるおじさんと妖精少女という関係性だったものを本作品では逆にする、つまりマニック・ピクシー・ドリーム・ガールならぬ、マニック・ピクシー・ドリーム・おじさんを登場させているということである。これまでも同性でMPDGを登場させるとか色々とジャンル解体が進んできた分野だったが、おじさんが妖精になる作品は意外となかったなと思うなどした。冒頭で、ベイリーが歩道橋の保護金網から空を飛ぶ鳥を撮影するシーンが登場する。動物園なんかで鳥は檻の中で人は檻の外だが、ここでは逆になる。ベイリーは自由に飛べる鳥に憧れているのだ。だからこそ、バードと名乗る妖精おじさんのルーツを探る旅というのは、ベイリー自身のルーツを巡る旅とも重なり、バグの結婚に納得のいかないベイリー自身の感情の整理、或いは初潮を迎えた身体的変化も含めた環境の変化への適応を象徴しているのだろう。ただ、バード氏の設定がフワッとしすぎているので、彼の両親探しの旅自体は一瞬で終わってしまい、記号的な存在以上の背景はなさそうなのが残念。あと、フラッシュバックで過去の映像が流れるTV的な演出も、ベイリーが見た世界としてのスマホ画郭での撮影もあまり上手くいってないように思えた。
子供を産む年齢が低い分、断絶する世代間の年齢差が他の作品よりも小さく、ハンターたちは高校生くらい、相手は20-30歳くらいというのに衝撃を受けた。バリー・コーガン(実年齢32歳)が父親であることを認識するのが遅れたのも、ここに結びついている。ちなみに、ヒキガエルの分泌物から得られる幻覚剤は超強力ということで、バグが金策のアテにしているのは正しいようだ(あまりにも無知すぎて何がしたいのか全く理解できなかった)。ベイリーの物語じゃないとこに躓く瞬間が多かった気がする。アンドレア・アーノルドならもっと上手く出来るでしょ。